「2人で力を合わせたら大丈夫だよ。どっかすごく遠いところまで、知り合いなんて一人もいないところまで行けば、疑われることもない」

「似すぎてるからきっと疑われる」


今いる教室からは、窓の端のほうに行くと卒業生が次々と校門から出ていく様子が見える。そう思ってから、卒業式がおわってからしばらく経つことに気が付いた。もうみんなお互い写真を取り合って、悲しいね寂しいねと声を交わし合って、次の場所への移動を始めている。

どうしてそんなに淡泊でいられるんだよ、と思った。


似すぎているって、性格のことでは、ないだろう。一瞬他人事のように考えてから、すとんと腹の底に落ちてきて、実感がじわりと広がる。俺と咲は苗字も違うのに、なんでそこは変えられないんだろう、と思う。過ごした時間など、他のクラスメイトと何ら変わりはない。血が、咲を求めたわけじゃ、決してない。だって俺がものすごく小さい時、物心ついたときには、もう一緒になど暮らしていなかったのだから。

咲は美しい。だけどそれが何よりも、俺と一緒に居られない理由となっているし、これからもどんどんなっていく。


俺の愛は、逃げ場のない絶望なんだ。


「じゃあ、行けよ」


それ以上言うと涙が言葉に混ざってしまいそうだった。俯きながら咲は今どんな顔をしているだろう、と思った。少しすると咲は歩きだして、汚れの少ないスリッパと白い足が俺の横を通り過ぎていく。ああ行かないでくれ、それか今すぐ消滅してくれ。俺の気持ちも一緒に持って行ってくれ。こらえきれなくなって涙が床に落ちたのと同時だった。

咲が背後から俺を、一度だけ抱きしめた。

白い腕が強すぎない力で俺を抱きしめて、俺の首に近い背中に咲は頭を寄せて、花の香りがした。その衝撃で心だけじゃない俺自身が粉々になる思いがする。やめて、という言葉に音が乗らずに、かすれた声と涙だけあふれた。

二度とその顔を見せてくれるな、もし俺が振り返ったときこの場にいたら、もし泣いてなどいたら、この場で犯して殺してやる。だからお願いだから、もう俺を楽にして。

壊れそうな衝動が俺の中で暴れている、風の音が聞こえて、まるで俺のようだと思う。


きっとそんなことを考えていたのは数秒間で、咲は腕を離して教室から出ていった。
ああさようなら、愛しているよ。だけどさようなら。