どうして何も知らずに、自分だけが傷ついたような顔をしていられたんだろう。
相川の両目に涙が溜まっている。きっと目を細めたらこぼれてしまう、と思うと、身体の上から下までひとつの感情が突き抜けていく。もっとこの人と話せばよかった。相川が目を細める。あ、と思ったときに彼は、本当にこらえきれないように涙を流した。
「……って、言えなかったんだけどね」
そして筋になって流れていく彼の涙を見て、私は、全身から力が抜けていくことを自覚しながら、ただ自分の目に涙が込みあげてきて流れていくのに逆らえないでいた。
何と言えばいいだろう、どうしたら時間が戻ってくれるだろう。どうしたら後悔せずに済んで、この人を後悔させずに済むだろう。考えても分からなくて、やがて考える力が鈍っていく。ただ泣いているだけのみじめな生き物になっていく。
「ごめん、高須賀。ありがとう」
それはまぎれもなく別れの言葉であった。
私が何も言えないまま、近づいた顔を触れさせることもないまま、相川は私の横を歩いて過ぎた。ざくっ、という鈍い雪の音が、私と彼の世界を本格的に壊していく。
それが3回くらい聞こえたとき、ようやく私ののどは震えた。
「私の高校生活はっ」
舌足らずで情けない声が出る。寒い気候も手伝って、きっと鼻水も出ている。だけど私はこうやって声を張る以外に、今よりもさらに後悔しないようにする方法を知らない。
「……全部、相川だったって言える」
相川の鼻の頭が赤くなっている。それを見て自分の指先に感覚がなくなっていることに気づく。コートのポケットに手を入れると、長時間触られずに固まって、暖かくなったカイロが私の指を刺激した。カイロ持ってたの忘れてた、と顔を上げると、彼がもう私のすぐ目の前に立っていて、またまっすぐに私を見た。
相変わらず私を襲う後悔。罪悪感と、感謝。別れを惜しんで、受け入れきれない悲しみ。覚悟をして、悲しみの淵で思う、さようなら。心の中は騒がしいままだけれど、彼ともう一度近づいて、見つめ合った時、確かにすべて忘れる瞬間があった。
世界に2人だけのように、相川は私の視界をすべて占領して、そのままそっとキスをした。
相川の両目に涙が溜まっている。きっと目を細めたらこぼれてしまう、と思うと、身体の上から下までひとつの感情が突き抜けていく。もっとこの人と話せばよかった。相川が目を細める。あ、と思ったときに彼は、本当にこらえきれないように涙を流した。
「……って、言えなかったんだけどね」
そして筋になって流れていく彼の涙を見て、私は、全身から力が抜けていくことを自覚しながら、ただ自分の目に涙が込みあげてきて流れていくのに逆らえないでいた。
何と言えばいいだろう、どうしたら時間が戻ってくれるだろう。どうしたら後悔せずに済んで、この人を後悔させずに済むだろう。考えても分からなくて、やがて考える力が鈍っていく。ただ泣いているだけのみじめな生き物になっていく。
「ごめん、高須賀。ありがとう」
それはまぎれもなく別れの言葉であった。
私が何も言えないまま、近づいた顔を触れさせることもないまま、相川は私の横を歩いて過ぎた。ざくっ、という鈍い雪の音が、私と彼の世界を本格的に壊していく。
それが3回くらい聞こえたとき、ようやく私ののどは震えた。
「私の高校生活はっ」
舌足らずで情けない声が出る。寒い気候も手伝って、きっと鼻水も出ている。だけど私はこうやって声を張る以外に、今よりもさらに後悔しないようにする方法を知らない。
「……全部、相川だったって言える」
相川の鼻の頭が赤くなっている。それを見て自分の指先に感覚がなくなっていることに気づく。コートのポケットに手を入れると、長時間触られずに固まって、暖かくなったカイロが私の指を刺激した。カイロ持ってたの忘れてた、と顔を上げると、彼がもう私のすぐ目の前に立っていて、またまっすぐに私を見た。
相変わらず私を襲う後悔。罪悪感と、感謝。別れを惜しんで、受け入れきれない悲しみ。覚悟をして、悲しみの淵で思う、さようなら。心の中は騒がしいままだけれど、彼ともう一度近づいて、見つめ合った時、確かにすべて忘れる瞬間があった。
世界に2人だけのように、相川は私の視界をすべて占領して、そのままそっとキスをした。