卒業式の日の空はなんだか不安定で、晴れているのに雪が降ったり、日差しはあるのに風が強くて寒かったりしていた。私は外を歩きながら、いつになったら雪が溶けるのだろうと考える。もう駅構内のコンビニにはあれ以来寄っていない。
式が終わって、担任の先生が話をして解散になった時、私は女の子数人と写真を撮りながら、教室全体を見渡してみる。おとなしいけれど可愛い、と囁かれていた女の子が、絡んだことなどまるでなさそうな男子に写真を一緒に撮ってほしいと頼まれて囲まれていた。
私は誰かに声をかけられる前に絶対逃げてやる、と思っている。
いつかコンビニの中で聞いた男子の声が近づいてきて、名前を呼ばれた気がする。絶対に気づいてない振りをするんだ。私は一度も顔を上げずに走るように教室を出た。
逃げて、逃げて逃げて。こわいものや都合の悪いことからは全部逃げていきたい。
昇降口で靴を履き替えて駅へ向かう途中、気が付くと走っていた。走っている瞬間は、私が学校に残した大きな忘れ物から、目をそらせるかと思った。
赤信号で足を止めると、後ろから急いだように足音が聞こえてくる。それを聞きながらああ私と同じ人がいる、と思うと笑えてきた。学校から少し離れたからか、その足音が私を追っていたことに全く気がつかなかった。
「高須賀」
いつも図書室で聞いていたそれより大きな声がした。
どんよりとした冷たい空気のなかで、図書室の外で相川に会える日は来るのか、とぼんやりと考えた日のことを思い出す。あれが最後に相川と話した日になったけれど。
なぜ、相川が私の手の甲を握っているのか分からない。けれどきっと袖や手首を掴まれていたら分からなかった、彼の体温が伝わってきて、初めて胸がいっぱいになる瞬間を自覚した。
今この瞬間、自分の気持ちが分からない。
「なにっ……」
離してほしい、という気持ちで腕を引くと、思ったより強い力で私の手を掴んでいた彼の腕が一緒についてくる。ブレザーの下に来ていたカーディガンが少しずれて、彼の白い腕が見えた。離してよ、と言おうと思って、息が詰まった。
白くて細い罪のなさそうな腕に、赤黒い小さな円形の陥没が、4つ散らばっている。
「あいか……わ……これ……」
式が終わって、担任の先生が話をして解散になった時、私は女の子数人と写真を撮りながら、教室全体を見渡してみる。おとなしいけれど可愛い、と囁かれていた女の子が、絡んだことなどまるでなさそうな男子に写真を一緒に撮ってほしいと頼まれて囲まれていた。
私は誰かに声をかけられる前に絶対逃げてやる、と思っている。
いつかコンビニの中で聞いた男子の声が近づいてきて、名前を呼ばれた気がする。絶対に気づいてない振りをするんだ。私は一度も顔を上げずに走るように教室を出た。
逃げて、逃げて逃げて。こわいものや都合の悪いことからは全部逃げていきたい。
昇降口で靴を履き替えて駅へ向かう途中、気が付くと走っていた。走っている瞬間は、私が学校に残した大きな忘れ物から、目をそらせるかと思った。
赤信号で足を止めると、後ろから急いだように足音が聞こえてくる。それを聞きながらああ私と同じ人がいる、と思うと笑えてきた。学校から少し離れたからか、その足音が私を追っていたことに全く気がつかなかった。
「高須賀」
いつも図書室で聞いていたそれより大きな声がした。
どんよりとした冷たい空気のなかで、図書室の外で相川に会える日は来るのか、とぼんやりと考えた日のことを思い出す。あれが最後に相川と話した日になったけれど。
なぜ、相川が私の手の甲を握っているのか分からない。けれどきっと袖や手首を掴まれていたら分からなかった、彼の体温が伝わってきて、初めて胸がいっぱいになる瞬間を自覚した。
今この瞬間、自分の気持ちが分からない。
「なにっ……」
離してほしい、という気持ちで腕を引くと、思ったより強い力で私の手を掴んでいた彼の腕が一緒についてくる。ブレザーの下に来ていたカーディガンが少しずれて、彼の白い腕が見えた。離してよ、と言おうと思って、息が詰まった。
白くて細い罪のなさそうな腕に、赤黒い小さな円形の陥没が、4つ散らばっている。
「あいか……わ……これ……」