スクールバックが落ちた。バスっと音がしたけれど、後ろから聞こえてくる声に気づいたようすはない。自分の顔が赤くなっていくのが見なくてもわかる。心が沸騰したように熱くなって、急激に冷めていく。手の中にあるカフェオレだけが、私の中の急激な温度差に気づいていない。
信じられない、考えられない、と思っていも、それを声に出してひっぱたきに行く勇気が、ない。

突然全部やめたくなる。ハーフであることも、女であることも。けれどその方法を知らない。



嫌なことがあった日も、驚くニュースがある日も私はほぼ毎日図書室へ通っていた。だからその日も日課であるように足は図書室へ向かったけれど、私は朝の出来事を一日中忘れられないでいた。救いを求めるように相川のもとへ向かっている一方、今はとてもそんな気分じゃないと、切り替えられない私が確かにいた。


相川はそんな私の気持ちなどまるで感づかず、いつものように少し表情をゆるめて私にあいさつをした。少し微笑んで、いつものように痛い質問をする。今日は何か面白いことがあったの?と。

私は楽しかったことを思い返す気にすらならず、今まで相川に話したことが無かったことを言った。


「私がハーフで生まれてきたことなんて、私が選んでしたことじゃないのに、嫌な目にばかりあうね」


相川は特に表情を変えずにどういうこと?と言った。その温度差に苦しくなるのを感じながら、私は言葉を続ける。一体誰に訴えればわかってもらえるのだろう、と思いながら、きっと相川は分かってくれる、と思いながら。


「もう変な目で見られるの、疲れた。私はそんなにもみんなと違うのかな」


言葉にも、目にも熱が籠っている。だけど仕方がない、いやだったんだから。私は傷ついたんだから。そこで言葉を切った私は相川の優しい言葉を期待した。けれど相川は、



「自意識過剰だよ、そんなの」



困ったように笑いながら、私を傷つけた。



「何それ、何でそんな無神経な」


言葉が続かない。今まで相川に相談しことはなかったけれど、言ったらこんな反応されるなんて思ったことがない。あまりにも配慮がない発言だと思った。


「私が今までどんな目に遭ったか知ってるの。どこに居ても変な目で見られるし、気の強い子にはいじめられる。それが、ある年齢に達したら性的な対象になるのよ」