相川のまるで抑揚のない声に、馬鹿にされたことに気づく。実際にはそんなコラムを読んだだけで特にそのあと何も考えなかったので、答えが出たもくそもないけれど。


「外側か、おもしろいね。一説によると、宇宙の形は人の脳内によく似ているらしい。ということは、俺たちは今、誰かの脳内で生きているのかもしれないね」

「えっ!?何それ」

「宇宙が人の脳なら、そういうことじゃない?ということはだな、俺らの頭の中も宇宙なんだよ。俺らの頭の中にも星があって、生命体があって、人間の生活があるんだ。そして俺らの頭の中の人間の頭の中にも宇宙が……」

「ちょっと何言ってるかわかんない。電波?」


それなら地球は一体どの部分にあたるんだろう。私たちなんて細胞一個分にも満たないじゃないか。そんなことを考えながら彼の手元の本に目をやると、「イギリスの教育問題」なんて表紙に書いてあるものだから、この人の雑学の守備範囲はどこまでいくんだろう、とあきれる。

この時間が永遠に続けばいい、と、どのくらい思い続けたかもう分からない。人生の中でそんなことを思うことはあまりなかった。たいていは肩身が狭くて、はやく逃げ出したいことばかりだったのだから。


それでも卒業までの時間は、確実に、日々を追うごとに早く、進んでいく。


朝の駅前で、傘をさして歩く人たちは少し憂鬱そうな顔をしている。灰色の空から雪が絶えず降っていて、やはり晴れの日は少ない。そんなどんよりとした冷たい空気のなかで、図書室の外で相川に会える日は来るのか、とぼんやりと考えていた。

コンビニでドリンクコーナーからカフェオレを取り出したところで、後ろから男子たちの声がした。大きな声で話す声が、私のクラスの女の子の噂をしていていることにはすぐ気が付いた。


「渡会が北野と別れたらしいよ」

「マジで!?じゃあ俺が付き合おうかな」


渡会さんとは、私のクラスの派手な女の子だ。彼氏がいたことすら知らなかったけれど、こういう風に情報が入ってくるのは気分がよくないなあ、と思ってレジへ向かおうとした瞬間、私はドリンクコーナーの前で動くに動けなくなる。


「いや俺は高須賀がいいわ」

「あー!分かる、たまらんね、あれ可愛いし」

「白人の血が入ってると違うよな、身体の成熟感が」