「私が優しく見えるのは、どんな問題を抱えている人でも、私が秘密にしてる事実より罪が重い人なんて居ないからで、私が平等に見えるのは、妹尾が私にとって特別すぎるからで……そして私は純粋に見えるかもしれないけれど、本当は、かけ離れたところにいる」


僕の予想の上を行っていた。穢れを知らないように見える彼女が、禁忌に身を落とした、など。そして彼女がトイレの前で僕を庇った日が思い返される。その点で言ったら、妹尾も瀬川くんも同じよ。彼女はそう言った。

当然かもしれない、荒田咲が妹尾を好きで、妹尾が双子の弟だったら、妹尾の容姿に客観的なコメントができるはずがない。そもそも僕でも僕以外でも彼女が、妹尾と比べられるはずがない。

この人の平等は不平等の上に成り立つ必至だったようだ、と思うと嘲笑が漏れる。


嫌なものを見るような気がしながら彼女を見ると、やはり彫刻のようで美しい顔をしていた。その瞬間にどこかで似たものを見たような気がする、と思う。


「だけどもう、離れ離れになる覚悟ができたから、そう思うと泣けてきたの」



この人は優しいようで平等なようで純粋なようで、誰かを決定的に差別する気持ちも、穢れも、傷も知っている。みんなが羨むような彼女は、妹尾と他人であるみんなを羨んでいる。なんだそれ。


だけど上げた顔を見るとやはり美しいと思える。そこで僕は毎朝毎夜見ている景色を思い出す。全て知っているような、途方もない青。夏でも冬でもそれ以外でも変わらず、周りの景色に影響されることなく、それがそれ自身であると思う、常に。いろんな現実と感情を飲み込んで立っている、彼女。


「覚悟ができたの?それは本当?」

「覚悟はできたよ。感情がついてくるのは、きっともっと先だけど」


教室に白い光が差し込んでくる。きっと彼女のためだ、と思うと納得がいく。今僕の目の前にいるのは、美しく、儚く、手には入らない彼女。


「きっとすぐに忘れられるよ」


彼女の不服そうな苦笑いを見てから、自分が言ったことに気が付いた。無神経なことを言ったな、弁解しないと、と思うと風の音が窓を叩いた。その鋭い音に、僕は海岸沿いに居る気がしている。



「僕がきみのことを好きだから。多分これからもずっと好きだから。きみが妹尾を思い出さなくなるまで、どんな時も僕がそばで支えられるから」