いかにも要らないものを押し付けてくる横平には不愉快な思いをしたけれど、いらないと言う前に胸ポケットに入れられたので抵抗はしなかった。取り出して見てみると、梅サイダー飴と書いてあって、透明な袋の奥に気味の悪いほど真っ赤な飴が入っているのが見えた。馬鹿な飴は馬鹿な女に需要があるんだな、と心の中で笑うと、自分の心の健康状態がよく理解できる。
あまりつややかとは言えない茶色の髪を揺らしながら横平は俺に手を振った。でもあの笑顔は、少し可愛い。あぁ今日が最後の日か。俺は相変わらず強い風が吹く窓の外を見ながら、飴の袋を破って口に放り込んだ。馬鹿そうな味だ、馬鹿な横平にも、馬鹿な俺にもちょうどいい。
最後なんだから。俺は少し人がまばらになった廊下を歩いて咲を探した。しばらく歩くと、日当たりのよい、誰もいない美術室で窓の外を見ている咲に出会った。教室に入った瞬間少し暖かいのを感じて、窓際で日に当たっている咲が急に少し、白くて育ちのよい猫のように見えた。
「俺の舌、何色?」
咲は俺の突然の登場に驚くことなく笑って寄ってくる。俺が追いかけてくるのが、まるで分っていたようだ。
「うわっ、赤!なにそれ流血してるみたいだよ、何食べたのよ」
「何だと思う?まだこの辺に残ってるよ」
そう言って俺は自分の舌の中心を指さす。すると咲はえー?と笑いながら無邪気に顔を寄せてきた。その時に髪がさらっと揺れて、甘い香りがした。それを認識した瞬間、俺の中の理性とか理想とかがすべてつぶされて混じり合って、どろどろに溶けて滴るのを感じた。
放課後にもならない日の当たる教室で、俺は咲にキスをした。壊れればいいのに、と思いながら出せる精一杯の力で抱きしめて、頭を抱えて舌を差し込んだ。炭酸系の飴を食べるといつも上あごを切ってしまうことを、咲に強く口づけながら思い出す。
咲はんん、と声を上げながら抵抗する気があるのかないのか分からない力で俺を押してくる。馬鹿じゃないのか、このまま砕けて壊れて、いっそ俺の一部になってくれ。
甘すぎる。甘すぎて涙が出そうだ、と思ってから、さっきからこの飴が甘いということばかりに神経を集中させていることに気が付く。例えばもっと気にさわることはあっていいはずだ、赤すぎる、とか。
「2人でどこかに逃げようよ」
「無理だよ。そんな頭も経済力もないもん」
あまりつややかとは言えない茶色の髪を揺らしながら横平は俺に手を振った。でもあの笑顔は、少し可愛い。あぁ今日が最後の日か。俺は相変わらず強い風が吹く窓の外を見ながら、飴の袋を破って口に放り込んだ。馬鹿そうな味だ、馬鹿な横平にも、馬鹿な俺にもちょうどいい。
最後なんだから。俺は少し人がまばらになった廊下を歩いて咲を探した。しばらく歩くと、日当たりのよい、誰もいない美術室で窓の外を見ている咲に出会った。教室に入った瞬間少し暖かいのを感じて、窓際で日に当たっている咲が急に少し、白くて育ちのよい猫のように見えた。
「俺の舌、何色?」
咲は俺の突然の登場に驚くことなく笑って寄ってくる。俺が追いかけてくるのが、まるで分っていたようだ。
「うわっ、赤!なにそれ流血してるみたいだよ、何食べたのよ」
「何だと思う?まだこの辺に残ってるよ」
そう言って俺は自分の舌の中心を指さす。すると咲はえー?と笑いながら無邪気に顔を寄せてきた。その時に髪がさらっと揺れて、甘い香りがした。それを認識した瞬間、俺の中の理性とか理想とかがすべてつぶされて混じり合って、どろどろに溶けて滴るのを感じた。
放課後にもならない日の当たる教室で、俺は咲にキスをした。壊れればいいのに、と思いながら出せる精一杯の力で抱きしめて、頭を抱えて舌を差し込んだ。炭酸系の飴を食べるといつも上あごを切ってしまうことを、咲に強く口づけながら思い出す。
咲はんん、と声を上げながら抵抗する気があるのかないのか分からない力で俺を押してくる。馬鹿じゃないのか、このまま砕けて壊れて、いっそ俺の一部になってくれ。
甘すぎる。甘すぎて涙が出そうだ、と思ってから、さっきからこの飴が甘いということばかりに神経を集中させていることに気が付く。例えばもっと気にさわることはあっていいはずだ、赤すぎる、とか。
「2人でどこかに逃げようよ」
「無理だよ。そんな頭も経済力もないもん」