勘違いでも、そうでもなくても一緒か、と思う。どのみち横平に会うのは今日で最後なのだから。


「横平、俯くのやめて」


そう思うと急に惜しくなってくる。もっとこの人と話してみたかった。隣の席に居たことが、無条件に与えられていた空間を、もっと大切にすればよかった。


「横平は魅力的な人だ。僕は色んなものを下らないと思って見てきたけど、横平はそうじゃない。会えてよかったし、隣でよかった」


そう言うと横平は少し恥ずかしそうに、微笑んだ。その顔が、すごく整っているわけでもないし、髪の色が似合っているわけでもないけれど、心の底から綺麗だと思った。

彼女を乗せたバスが小さくなっていくのを見ながらただこの人の行く先が幸せであればいいと思う。

肩に雪を積もらせながら職員室へ戻ると、ストーブがゴンゴンと燃えていた。教室は暖房だけれど職員室には大きいストーブが二つ設置されている。主観だけれど、もっと暖かくてアットホームな印象があるのでストーブは好きである。


「ああ、瀬川!あったよ、あったんだ。他クラスに紛れて、欠席者に紛れて、はぁ、よかった」


高村先生が何を言っているのかよく分からなかったが、ありがとうございます、と言って受け取った。あーよかった、ごめんな、と言う高村先生はくだけていて少し少年のようで、女子生徒にいつもこの目線で関わっているのだとしたら、誰か惚れるやつがいるんじゃないだろうか、と思う。

まあ、今時、教師と生徒の恋愛なんてありえないか。


お礼を言って教室へ向かうと、廊下に生徒はほぼ居なくなっていた。一クラスに一人いるか居ないか程度で、廊下は静まり返っている。

明るい時間帯にこんなにも教室ががらんとしているのを見るのは久しぶりで、階段を登りきった場所から見る廊下がどこまでも続いているように見えた。白い廊下に、少しの埃と足跡が乗っている。それらに対しても、最後か、と思う。


荷物を取りに自分の教室へ入ると、一人の女子が、着席して俯いていた。

誰だろう、と思う前に僕は気づいている、美しい黒髪を揺らしこのクラスでたった一人で俯く少女が、荒田咲であるということに。


「何があったの?」