風に波を立てながら鳴る海は、透き通った色をし、純粋なようで、外側から見るととても美しく凛々しい。僕の知らない歴史を見てきたにも関わらず。夜になるとどす黒く勢いを増し、時には人を飲み込んできたのにも関わらず。



もともとはもうあと2ランク上の高校へ行くはずだった。しかし3年前の入試の日の朝、なぜか急激に胃が痛くなって家から一歩も出られなかった。

高校1年生の時、英検の準1級の試験に向かう電車が人身事故を起こし、電車が50分遅れになったおかげで試験に間に合わなかった。

高校2年生の時には、8年間応募し続けてようやく当選した日本シリーズの、チケットが入った財布がドームへ向かう電車の中ですられた。

そこで愚かな僕はようやく気づいたのである、自分が勝負ごとに弱い運命を抱えていることに。

そんな僕の話を聞いて荒田咲はこんなことを言った。


「そんなにもついてないなら、じゃあ何か成功したり手に入れたりしたらそれは、必ず瀬川くんの努力の結果なんだね。それってすごくかっこいいね」


その言葉を噛み砕いてはじめて、僕は案外いろんなものを持っていることに気が付いた。


その時初めて物は見ようだと思えた気がする。それ以来僕はクラスメイトのことをよく見ることが増えた。今までは糞のようなカースト制度で生きる低学歴な猿どもとしか思っていなかったのにもかかわらず、少し見ていると、実はかなりおかしいことに気が付いた。

頭がクラス1弱いような顔をして、僕の隣で数三の応用問題を静かに解くギャルのような装いをした女がいれば、それを何も言わず挨拶もせずにただ遠くから何かにつけて見つめている元野球部。そいつと付き合っているらしい派手な顔をした女は、いつも下を見てほとんど声をあげない地味で物静かな女子と最近になっていつも一緒にいる。

その中でも群を抜いて狂っているのが、僕を慰めた荒田咲と、妹尾が他人のわりには、あまりにもそっくりなこと。


「ねえ、瀬川くん。今日の4限、覚えてる?」