みんな今までありがとう。みんなのクラスの担任で俺、本当に楽しかったよ。ありがとう。
はい、それじゃ解散。写真撮るやつ撮ってもいいけど、1時半までには全員出ろよ。



この声を心の中に一生懸命残している間は、さすがに下を向いて泣いてしまった。途方もなく。


あぁ私はいつになったらちゃんと忘れられるのだろう。これから先もなんだかんだ理由をつけて会いたくなって連絡してしまうんだろうか。

困らせるように人に言うよ言うよと愁ちゃんを脅し始めるんだろうか。

この先のことが何も分からない。自分さえどう変わっていくのか分からない。



校舎を出て校門へ向かって歩いていると、後ろから呼び止められた。


「沙苗!」


振り返るまでもなくそれが愁ちゃんの声だと気づいていたくせに私はすっとぼけた顔をする。後ろを見て少し人を探して、あぁ愁ちゃんか、というリアクションをしてみせる。


「昨日、合格発表だったろ。言ってなくてごめんな。合格おめでとう」


返事をしようとしたのに、ただ私は息を吐いただけで、それは白かった。白い息が私の目の前に流れて、一瞬だけ、愁ちゃんの顔をぼやけさせた。

膝から崩れ落ちそうになる気持ちを堪えて、鉛のように重い頬を上げる。こんなに頑張るのは、きっと後にも先にもこれだけだ、と思いながら私は笑ってみせた。


「ありがとうございます。教育学部に進むんです、私」


あと数秒もすれば、身体からすべての力が抜けていくのだろうか。私はいつ、泣き崩れるのを許されるのだろう。いつになったらこの人を忘れられるだろう。一生できない気がする。

だとしたら私が今できることは何だろう?縋りつかないことくらいしか、分からない。


「……教師になるのか」


息が白いです先生。私は返事をすることができない。だって教師のことを好きになって、してはいけないことをしてそれが知られることもなく埋葬されようとしているのにも関わらず、私は教師に憧れている。

だってこの人が今まで生きてきた中では最大の喜びを教えてくれたから。


「教師に、なるかもしれません。ちゃんとした、誠実な、喜びを与えられるような」


風が私のスカートの下を撫でていく。ストッキングを履いていることを忘れそうなくらい冷たい。もっと暖かい格好しなさいよ、と今日の朝に親が言っていたのを思い出す。