あっけなくやってきた卒業式の日には、今まで話したこともないような女子と写真を撮った。変な感じだ、と思う。卒業式なんてただの日常の一日だろうに、みんな好きなやつとは卒業したって会うだろうに。なんて、一番そんな風に思えない俺がそんなこと考えても、説得力はまるでないな。


俺の周りが少し落ち着いたところで、見て見て、と咲がやってきた。


「こんなに手紙もらっちゃったよ。すごくない?」


卒業式にラブレターとか寒すぎだろ、と思って見てみるとそれはどうやら女の子の文字で、なるほど卒業式には女同士が手紙を書くというイベントも発生するのか、と思った。

しばらく咲と話していると、クラスメイトである横平が俺のもとへやってきた。


「妹尾くん、写真撮りましょー」


いいよーと返事をしてその女子の横に立つと、咲よりも幾分か背が低いことに気が付いて、なぜ今日女子たちと写真を撮りまくっていることに強烈な違和感を感じたのかに気が付いた。俺には咲の背丈が居心地がいいからだ、というか咲が隣にいることが。

横平からはフルーツ系の香水の匂いを感じて、赤い香水瓶が思い浮かぶ。苦手な匂いだ、と思うとその女は俺からぱっと離れてありがとうー!と笑った。


「妹尾くんと荒田さんも一緒に撮る?」


俺がいや、と答えようとすると、咲が撮ってもらおうよ、と言った。えっと思い、どういうことかわかってんの?と聞くと咲は「最後だし」と笑った。

最後という言葉に撃ち抜かれる思いをしながら、俺は咲と並んだ。横平がスマートフォンのカメラをこちらに向けている中で俺は、咲と同じ表情だけしないように気を付けた。咲が笑っているのを横目に見たあと、俺は笑うことができない。


「はーい。あとで荒田さんに送っとくね。って……なんか2人ってさ」


そこまで横平が言ったところで、咲は目をそらしてどこかへ歩いて行った。不自然なくらい早足で、気分を害したような顔をしている。俺はそれを見ていささか気に食わない思いがする、ならどうして一緒に写真撮ろうとか言ったんだよ。しかし横平はえ、あ、と軽く咲を目で追ったあと、何を言おうとしたか忘れたようで携帯を胸ポケットに入れた。頭の軽そうな女だ、と安心する。


「あー胸ポケットガサガサすると思ったら飴だ。あげる妹尾くん」