次の日教室へ行くとレナが大泣きしていた。泣きたいのはこっちだ、と思いながら彼女の話を聞くと、昨日ついにセフレだった高木陽太に振られたのだと言っている。ますます小さなことで悩んでいると一瞬考えてから、もしかしたら私と同じかも、と思った。

バックグラウンドはまるで違うけれど、好きな人から選んでもらえなかったということは同じだ。そう思うと私は自分のことでなく、レナに同情して涙が溢れてくる。

今もしかしたらすごくつらいんじゃないの、前も見えないほどに。


「ねえ、卒業式なんて出なくてもいいじゃない」

「えっ?」


寒い、刺さるような空気に暖房を何台か入れた部屋よりも、日当たりのいい教室へ行こう。レナと手をつないで南舎に移動すると、音楽室の手前の階段の踊り場に明るい日差しが差し込んでいた。近くから聞こえるピアノの音に思わず立ち止まるとレナがあ、と言った。


「ボレロじゃん、変なの。卒業式なのに陽気な」

「私、これ映画で聞いた。洗脳されちゃうような4時間ぶっ続けの映画でさ、流れ続けてたからしにばらく頭から離れなかったんだよね」


レナがマジで?と笑う。今思えば4時間もよく映画を見続けることができたなあ、と思う。たしか愁ちゃんと見たんだっけ。あれが唯一昼間にしたデートだった。と言ってもあれは関係を持つ前の話だからデートと言えるかどうかも分からないけれど。


映画館の前で愁ちゃんが先に声をかけたのだ。


「笹崎?一人で映画見るの?かっこいいじゃん……俺と同じ映画だ!」


愁ちゃんこそ一人で来たくせに、なぜか私を見てほっとしたような顔をした。まるで一人で見るのがいやだったように。だけどそんな表情を一瞬で翻して、愁ちゃんはまるで大人のように笑った。


「群れてない女子ってかっこいいな。でもあんまり一人で出歩くなよ、危ないから」


まいったなあ、6歳そこそこしか年齢が変わらない男に大人ぶられている、と思ったのを覚えている。けれどそれ以上に男の人にこうやってラフに話しかけられることに慣れていないパニックが私を襲ってくる。


「……主演の女優が好きなんです。顔が小さくて、可愛くて演技が上手で」

「あー、分かるよ。この人昔はアイドルみたいにグループ組んでアニメの主題歌歌ってたんだよ。だけど路線変えて正解だよな」

「えっ、そうなんですか?」