「楽しみ、だな。高校生っていう肩書きにはもう満足したかも」

「相変わらず大人っぽいこと言うんだなぁ。愁さんの影響?」


レナが愁ちゃんのことを愁さん、と呼んだのが可笑しくて思わず笑ってしまった。レナはあっ声大きかった?と周りを見渡す。大丈夫だよ、と返事をしつつ私は教室では絶対に彼の名前を呼ばない。

愁ちゃんとは付き合い始めた時に、この教室から卒業するまでは、この関係を誰にも言わないと約束した。だけどレナだけが知った。そしてそれ以来レナは私に共感を求めるように、自分の秘密を離して相談するようになった。

レナが自分の席に帰ったのと入れ違いで私の前の席の男が着席した。さっきまでの私と同じように頬杖をついて外を眺めている横顔を見て、美しい、と思う。

しばらく見とれていると彼が気づいたように私を一度だけ見た。そしてその視線はまるで興味が無いようにすぐに逸らされた。

彼はきっと多くの人にとって特別な人間であるに違いない。具体的に形容するほど私は彼に関心があるわけではないけれど、中性的で彫刻のようにきれいな顔をした彼が、荒田咲とよく似た造りの顔をしていることは分かる。

教室の中を一瞥して、目線は先生のいない教卓に行きつく。

卒業式の前日だという観点で見ると、この教室の中には非凡な人ばかりだったと思う。



愁ちゃんはいつも私や他の話し相手に向けるようにゆるく笑ってみせてから、私にキスをする。それに安心した次の瞬間には私は、奥まで入ってくる深い口づけにくらくらとしてくる。

息もできないキスを彼は私に落とし続ける。目の前がチカチカとする。夢のようだけれど、彼は私をこうして求めてくれる。好きだと言ってくれる。

ブラウスのボタンをていねいに外し、私の胸に手をかける。下着の上から揉んだり手を入れたりした後に背中に手を回してホックを外した。その一つ一つの動作に、頭が沸騰しそうになる。

暖かい手が私の胸を包み、撫で、愛してくれている。

好きな人が私のことを好きだと言ってくれる奇跡が、いつか当たり前になる時が来るのだろうか。長く付き合ったカップルはしばしば、お互いのことを大切にできなくなってしまうという。

そんなことまるで想像ができないほど、この人のことが好きでたまらない。だって私みたいに地味で内気でとろい女を、初めて見つけて、好きだと言ってくれた人なのだから。