「戻るって何?わたしの過去が綺麗だと思ってんの?どの時点に戻ればわたしが正しいわたしだったと言えるの」


4年前の横平のことを思い出すと確かに今とは大違いで、どちらが正しいかを考えてみても、背景の情報量が少なすぎて分からない。ただどちらも幸せだとは思えない。


「そうね、仮にわたしとあなたが同じ学校に通ってた時代だったとする?あんな素直な頃には戻れないね、窮屈だったし、何よりこの快感が癖でさあ」

「快感?」

「全員がわたしに騙されてる。みんなわたしを馬鹿だと思ってるの。だけどわたしの方がよっぽど勉強ができるし知識も多いのよ、馬鹿が賢いものを演じることはできないけれど、逆はできる。わたしはいつだって影響を与え、操作する側にいるの。それを実感するときが快感でたまらないのよ」


横平は少し顎を上げて、軽く俺のことを見下ろすように目を細める。細めているけれど俺は感じている、彼女の目の奥に大きい傷が植わっていることを。


「病んでるな」

「自覚してること言われたって、痛くも痒くもないよ」


強気で俺に笑いかけてくる。そのまっすぐな目線を受けて俺は思う。

横平の横平らしい部分は今も昔も賢くて気高い。それに狂いが入ろうが入るまいが、やはり俺にとって横平という女は非常に華やかで、美しいものだと感じる。

狂ったものに取り込まれている瞬間、俺も同等の物になる。


「好きだったんだ」

「はあ?」


気が付くと空は晴れているのに雪が降ってきた。明るいなかで降る雪は水分を多く含んでいて、積もるというよりもすでに積もっている雪を溶かすように降っている気がする。そして風が強いため体感温度はすこぶる低い。

ムチャクチャな天気だ、と思うと、横平も似たような顔をしていた。


「面白くないよ」


彼女の声が耳に届くたびに胸の中で今も実感している、14歳の俺が泣いてる。あれ以来ずっと泣いてる。高校生になってから横平に再開したけれど、俺の方を見向きもしなかった彼女を見て、取り返しのつかないことをしたことを知った。

結局卒業するまでそのことを引きずった俺は、遅すぎるのは知っていたけれど、彼女に話さなければいけないことがあった。進めるだろうか、

気づかないふりをした思いも、隠してきた罪も、ちゃんと告白して解放していけたら。