きっとその気になればこんな衝撃など、押さえつけることができる。今さえ我慢すれば、忘れていくことができる。いつか。

けれどこれが最後かもしれない、と思うと、俺は気づかないうちに、卒業式の熱に浮かされているのかもしれない。


中学生の頃の記憶をたどって横平の家に行くと、彼女は思った通り、引っ越してはいなかった。じゃあ会えなくなった後も、会おうと思えば会えたのかと思うと、意地を張った幼い自分が今とはまるで違う生き物であるかのような気になる。

俺はあの日、横平との待ち合わせを破った。あの時、横平はどんな気持ちだったんだろう。あれから横平は、どうしてあんなふうに変わってしまったのだろう。

少し経つと向こうから横平が歩いてくるのが見えて、俺はどうしようか考えているうちに少し家から遠ざかって、それでも彼女を見失うまいと、こちらへ向かってくる横平から目が離せない。

彼女は俺に気づいていないようで、明るい茶髪を緑と紺のチェックのマフラーにしまって歩き続ける。そして自宅に入ろうとするところだった。

敷地の中に入ろうとする横平の目は赤い。泣いたんだ、と思うと頭の奥が熱くなっていく。



「横平!」


彼女は驚いた顔をしたけれど、俺を認識するとゆっくりと、受け入れていないものを見る目に変わっていくのが分かった。


「何しに来たの?」


それは予想通り、いつも教室で発していた馬鹿のような高い声とは違って落ち着いた低い声だった。俺が昔聞いたことがある声そのものだ。


「謝りに来た」

「なにそれ?」


口元だけで小さく笑う。俺は体中が心臓になる思いをしながら彼女の方だけを見る。


「傷つけてごめん。許してもらえるなんて思ってないけど、あの時謝って、その当時の横平に謝罪して償わなくてごめん。弱くて、横平を独りぼっちにしてごめん」


俺が言い切るのを黙って聞いていた横平は敷地の柵に手をかけるのをやめて俺のほうを向く。


「興味ないよ。卒業した高揚感で過去のあやまちを清算してハッピー?自己満足にわたしを巻き込まないでくれるかな」


横平は赤い鼻をこちらに向けて俺を睨んでいる。目は赤いしキツイ表情をしているし、いつもとまるで違うけれど、本気なのがひしひしと伝わってくる。


「もう戻れないのか」