ずっとしまっていたマフラーを出したのだろうか、といつか思ったことがある。そして舞う埃。古い気持ちを引き出されたあと、ずっと俺の周りを浮いている、何か。


野球部の後輩との写真大会が終わって教室に戻るともうほとんど人はいなくなっていて、残念なような、ほっとしたような気持ちになる。まあいいや、俺はとりあえず、家に帰ろう。

自分の荷物をとって教室を出ると、廊下から聞き覚えのある大声が聞こえた。



「あんたがへらへら馬鹿みたいな振りしながら本当は周りを見下してたこと、ずっと前から知ってたわよ」


あー、えっと、誰の声だっけ。少し考えてから、これは三枝の幼馴染の村田里英子の声だということに気づく。


「何のこと?」

「学外模試の成績だけ、絶対誰にも教えなかったでしょ?小テストもわざと落ちて補習も出てたくせに、模試の成績が学年で2番目だって。それででかい声で勉強する意味わかんないとか言ってさあ、寒気するわ。変態でしょ、あんた」


そう里英子がまくし立てたおかげで俺はいろいろなことを知る。まず、里英子の会話の相手は横平であるということ。そして横平は、


「クラスの他の子に言ってやればよかったかもね。あんたが本当は性悪のプライドの塊だって」

「あれ、言ってないの?」


本当は、何も変わっていなかったのだということ。


「好きな男の前では性格良い振りしたんだっ?そんなことしても無駄だったね!彼、わたしのことが好きらしいじゃん?」

「あー言ってやればよかったなぁ。こんな性根腐ってる女なかなかいないってね。自分よりレベルの低い大学を受ける人間のことは鼻で笑うような人間だってね」

「わたしはあなたが受ける大学のレベルが高いとか低いとか興味ないよ。好きな男のために進路選ぶのが馬鹿みたいだって笑っただけよ」

「なんでそんなこと決めつけられるわけ。わたしが自分の進路考えずに受けるってどうして分かるのよ。この大学に学科がいくつあるか知ってるの?」

「興味ないから知らないわよ」


俺は踵を返して、別の方向から昇降口へ向かった。そうすればこの衝撃から目をそらせるかもしれないと思ったからだ。

そんなことはなかった。昇降口で、スニーカーを持つ手が震える。その瞬間に自覚が全身に伝わる。


ああ、俺は、どうしよう。