「わたし一番最近のボーリングのスコア34なんだよぉ」

「えっ何それ!?取ろうと思って取れるスコアじゃねーじゃん!」


三枝は楽しそうに返事をしているが、横平の間延びした大きな声を、何人かのクラスメイトが勉強の邪魔だと言いたげに横目で見ている。横平はそれにまるで気づいていないように、カーディガンの裾を伸ばしている。

あれってやりすぎると親指の部分に穴があくんだろ、と俺も同じように彼女を見ている。

彼女と一通り会話し終わった三枝はいやぁ、とすっかり影響を受けたように間抜けな声を出しながら俺のもとへやってきた。


「くぉ、横平って、癒し系じゃね?」

「三枝お前、それ言い続けてもう一年くらい経つな。もう卒業だぞ」


俺がそう言うと、いや、うーん、と三枝が唸る。一度サッカーの試合を観に行ったことがあるけれど、こんな風に女々しく唸っていることなど想像できないほど彼のプレーは堂々としていてカッコよかったんだけどなぁ。

それを思い出して俺は苦笑いする。もてるからと言って高を括っていないところが彼のいいところなんだろう、と思いながらこれでは情けない。


「あの馬鹿っぽくてホワホワしてる感じがたまらないんだよな。でも意外にガードが堅かったらどうしようと思うとなかなかなぁ」


俺がいつも使うのより3つ分早い駅で三枝は俺に手を振って降りて行った。この距離なら自転車で通えそうだけどなぁと思ってから、景色を見て納得する。白い。

さっきのようなことを言う三枝は、鈍いんだか鋭いんだか分からない。三枝に伝えたことはないけれど俺は知っている、後者は正解、前者は不正解。

俺の知っている横平はおよそ、馬鹿でもなければホワホワもしていない。


外の景色が少しずつ変わっていくのを電車の中で見ながら俺は教室の中の、横平という女のことを思い出していた。今日、三枝とへらへら会話をしていた彼女は、俺の方を見向きもしなかった。


きっと教室の中の誰も知らないし誰にも気づかれないようにひっそりと、横平は俺のことを無視している。

なぜなら俺はきっと彼女にとって予想外の存在だからだ。横平は中学生の頃、途中で転校していったけれど、俺のクラスメイトだった。