「横平は魅力的な人だ。僕は色んなものを下らないと思って見てきたけど、横平はそうじゃない。会えてよかったし、隣でよかった」
パァ、と場違いな音がして、これはバスのドアが開く音だ、と思う。待っていた人たちが急ぎ目にバスに入っていく。わたしもつられて後を追う。直前で振り返ると、いつも無表情な瀬川が微笑んでいる。
小さな箱を出たら、当たり前のように会いたい人に会えていた日常も消えてなくなる。誰のことも嫌いでいられたら、こんな気持ちにならないで済んだのに。
ありがとうと言う前に涙が溢れた。最後に彼がわたしの頭に手をのせた。馬鹿そうな茶髪が勘違いをして揺れる。ありがとう、ありがとう瀬川。
バスに乗り込んでからも彼を見ていると、彼は力の抜けた、けれど無表情とは違う顔でわたしを見た。これが最後だ、と思うと、涙が溢れて仕方がない。
そのまま雪の中をバスは走る。わたしは目を閉じる。いつか思い出さなくなるかもしれない、けれど大切な人を、長く覚えておくために。
fin
ちょっと狂った感じの人を放っておけないという癖はまぎれもなく、自分が狂っていることの証明になる、と思ったことがある。
「陽太は性欲ないの?」
埃が舞うのが視界に入った。目の前のクラスメイトである佐津川はいつもきれいにしているけれど、マフラーだけは押入れから出してきたばかりなのかもしれないなぁ、と彼女の早めのマフラーに目をやる。
もうマフラーか、と思ったことを覚えている。彼女が俺に向かってそんなことを言ったのは、まだ10月の半ばのことだった。その時俺がどんなリアクションをしたかは正直覚えてない。
ただ狂ってるなこの女、と思ったことだけは覚えている。だって彼女はその時、付き合っているわけでもない俺の手を握って自分の胸に置いた。
「佐津川のこと好きじゃないけど、やらせてくれんの?」
佐津川はかわいらしく恥じらうふりをして、すぐに俺にキスをした。俺は周りに誰もいないことを確認してから、彼女の制服に手を入れた。
女子高生の好奇心と猿同然の男子高生とは、なるほど利害の一致とはこういうことか、と思ったのも記憶に新しい。
卒業式前日の教室で、横平が少し遅れて教室へ入ってきた。三枝が嬉しそうに話しかけに行くと、彼女は顔中の筋肉を緩めたような笑顔を彼に向けた。
パァ、と場違いな音がして、これはバスのドアが開く音だ、と思う。待っていた人たちが急ぎ目にバスに入っていく。わたしもつられて後を追う。直前で振り返ると、いつも無表情な瀬川が微笑んでいる。
小さな箱を出たら、当たり前のように会いたい人に会えていた日常も消えてなくなる。誰のことも嫌いでいられたら、こんな気持ちにならないで済んだのに。
ありがとうと言う前に涙が溢れた。最後に彼がわたしの頭に手をのせた。馬鹿そうな茶髪が勘違いをして揺れる。ありがとう、ありがとう瀬川。
バスに乗り込んでからも彼を見ていると、彼は力の抜けた、けれど無表情とは違う顔でわたしを見た。これが最後だ、と思うと、涙が溢れて仕方がない。
そのまま雪の中をバスは走る。わたしは目を閉じる。いつか思い出さなくなるかもしれない、けれど大切な人を、長く覚えておくために。
fin
ちょっと狂った感じの人を放っておけないという癖はまぎれもなく、自分が狂っていることの証明になる、と思ったことがある。
「陽太は性欲ないの?」
埃が舞うのが視界に入った。目の前のクラスメイトである佐津川はいつもきれいにしているけれど、マフラーだけは押入れから出してきたばかりなのかもしれないなぁ、と彼女の早めのマフラーに目をやる。
もうマフラーか、と思ったことを覚えている。彼女が俺に向かってそんなことを言ったのは、まだ10月の半ばのことだった。その時俺がどんなリアクションをしたかは正直覚えてない。
ただ狂ってるなこの女、と思ったことだけは覚えている。だって彼女はその時、付き合っているわけでもない俺の手を握って自分の胸に置いた。
「佐津川のこと好きじゃないけど、やらせてくれんの?」
佐津川はかわいらしく恥じらうふりをして、すぐに俺にキスをした。俺は周りに誰もいないことを確認してから、彼女の制服に手を入れた。
女子高生の好奇心と猿同然の男子高生とは、なるほど利害の一致とはこういうことか、と思ったのも記憶に新しい。
卒業式前日の教室で、横平が少し遅れて教室へ入ってきた。三枝が嬉しそうに話しかけに行くと、彼女は顔中の筋肉を緩めたような笑顔を彼に向けた。