直後、里英子は憎しみを惜しげもなく表情に表した。般若みたい、と言ってやろうかどうか迷っていると、彼女も片側の口角を上げる。


「あー言ってやればよかったなぁ。こんな性根腐ってる女なかなかいないってね。自分よりレベルの低い大学を受ける人間のことは鼻で笑うような人間だってね」


さっき起きたばかりの状況をそのまま描写しただけの発言にメタファーを使うなよ、と心の中で毒づくがどうやら彼女は勘違いしている。


「わたしはあなたが受ける大学のレベルが高いとか低いとか興味ないよ。好きな男のために進路選ぶのが馬鹿みたいだって笑っただけよ」

「なんでそんなこと決めつけられるわけ。わたしが自分の進路考えずに受けるってどうして分かるのよ。この大学に学科がいくつあるか知ってるの?」

「興味ないから知らないわよ」


里英子は面白いくらいわたしの挑発にかちんときている。もう一発くらい殴ってくれても別に構わないし、なんならこの階段からわたしを突き落としてくれたって別にいいと思っているけれど、彼女は両手を握りしめて震えている。そして言った。


「っていうか羨ましいんでしょ?プライドが高くて学歴コンプだから」


どういう思考回路でそうなるんだよ、と言い返そうとしたところ、畳みかけるように里英子が言った。


「嫉妬でとばっちりでしょ。瀬川に気持ちを伝えられないことへのさ」

「は?」

「負ける勇気もない小物女が。そのしょうもないプライドに身を亡ぼせばいい」


目の前の女が、何を言っているのかわからない。
わたしの顔から戦闘意欲が消えたことを悟った里英子は、興醒めしたように溜息をついた。


「誰にも何も気づかれてないと思うのやめなよ。傲慢」


煩い、だって冷たい廊下は反射する言葉の角を磨いているようだ。気が付いたら暖房の届かないこの場所では、わたしと里英子の息は白い。

白い息とともに発せられた言葉はわたしの身体に刺さる、通過していく。もしこの刺さった後に穴が残るなら、わたしの身体を穴だらけにして、散り散りにして。


「馬鹿みたいに傷ついた顔してるよ。何なのあんた?」


そう里英子に言われて初めて、自分がさっき三枝のことで馬鹿にしたのが、里英子にどんな風に響いたのかを自覚する。わたしは何も言い返せない。


「クラスメイトと教師に馬鹿と思われて何がいいのよ」