いつも通りへらっと笑おうか迷って、彼女の横に紙が落ちていることに気が付いた。それを拾いあげると、大学の受験表だったようで、氏名欄に村田里英子と書いてある。大学名を見るとそれは、三枝が推薦で合格した大学だった。

嘘だろ、と思うと、瀬川の顔が浮かぶ。わたしなんかよりよっぽど賢いくせに、推薦でどこかの地方への大学を決めてしまった彼。荒田咲と一緒に。

どいつもこいつも、馬鹿じゃないのか。


その受験票を見ると笑えてくる。はっ、と鼻で笑ったあと、激昂した里英子が立ち上がったところで、自分のやってしまったことに気が付いた。

ばしんっと、容赦ない音が響いた。こんな風に叩かれたのは人生で初めてだ、とどこか冷静な気分でわたしは里英子を見下ろした。


「あんたがへらへら馬鹿みたいな振りしながら本当は周りを見下してたこと、ずっと前から知ってたわよ」


プライドが許さないのだろう、赤くなった目を鋭くしてわたしをにらんでいる。にらまれたわたしは、泣いたらアイプチが取れるよ、なんて思っている。


「何のこと?」

「学外模試の成績だけ、絶対誰にも教えなかったでしょ?小テストもわざと落ちて補習も出てたくせに、模試の成績が学年で2番目だって。それででかい声で勉強する意味わかんないとか言ってさあ、寒気するわ。変態でしょ、あんた」


見られていたのか、と少ししくじった気分になる。多くの人間が知っていたとすると、確かに寒気がする。初めて学外模試の結果が出たときは教師に呼び出された。不正を疑われたわけだが、わたしは教師さえだましたのだと嬉しくなったのを覚えている。


「クラスの他の子に言ってやればよかったかもね。あんたが本当は性悪のプライドの塊だって」

「あれ、言ってないの?」

「慎太郎には言えなかったのよ」


慎太郎って誰だ、と考えてから、三枝慎太郎という名前だったと思い出す。すると里英子の言わんとすることがよくわかって、わたしはまた堪えられずに笑う。

あぁ、もう少しで完璧に『わたし』という人格をこの学校に残せたのに。少し残念だけれど、どのみち目の前の女には結構前からばれていたんだから一緒か、と思うとくらっときて、手加減がわからなくなる。


「好きな男の前では性格良い振りしたんだっ?そんなことしても無駄だったね!彼、わたしのことが好きらしいじゃん?」