次の日、相変わらず冷たい空気のなかで卒業式が終わると、わたしは全身から力が抜けたような気分になって、そのまま誰にも何も言わずに帰ってやろうか、という気持ちになった。
いや、まだだ。右手をロッカーにのせると静電気を感じて、痛いと思うと、いつも冬を好きなのはわたしのみで、冬には好かれていないかもしれないなあという気持ちになる。乾燥肌だし。
スマホを握りしめてクラスメイトと写真を撮るうちに、荒田咲のところへたどり着いた。彼女は教室の隅で、妹尾と話していた。2人が並ぶと、もはや圧倒的な空気になる。自意識に目が向くのを自覚しながら、こんな時なら「わたし」は空気は読まない、と考え直す。
妹尾は男だけれど、本当に美しい。はっとさせられる。スマホのカメラフォルダを確認して、静止画でも他撮りでも全く色あせない妹尾と荒田咲のペアを見て、これはずっと保存しておくかもしれない、と思う。わたしが写りこんだものは、きっと帰ってから消すだろう。
適当に何かを言おうとしたわたしの横を、荒田咲が通り過ぎていく。彼女のカーディガンのポケットからは、パンダのマスコットが顔を出していた。
それに気づいたわたしは、自分の思考が束の間、止まったのを自覚する。
外をちらっと見る。相変わらず外は明るい。そうか、と太陽を一度視界に入れてから目をそらして教室を見る。教室の中は暖房が入っていて、その熱がぼんやりと輪郭を溶かしている気がする。
外の方が寒いに決まってるのに。
気が付くと教室から人はまばらになり、静かになっていた。もうみんなはそろそろ次の場所へ移動したのだろうか。わたしはこれからどうしようか。とりあえず今日で終わりなのだ、この小さい箱と付き合うのは。
行先はとりあえず外に出てから考えようと、鞄を持って廊下を出る。窓から見える梅の木を見て、あぁ枝ごといってる、と思ったときだった。
前からバタバタと足音がして、ちょうどわたしが廊下を曲がろうと角に差し掛かったところで、正面から誰かがわたしにぶつかった。顔を上げたのはわたしの苦手な女だった。三枝の幼馴染の、里英子だ。
ぶつかってきた張本人はなぜか冷めた目をわたしに向けてくる。とっくに気づいている、この女がわたしを敵視していることなど。
いや、まだだ。右手をロッカーにのせると静電気を感じて、痛いと思うと、いつも冬を好きなのはわたしのみで、冬には好かれていないかもしれないなあという気持ちになる。乾燥肌だし。
スマホを握りしめてクラスメイトと写真を撮るうちに、荒田咲のところへたどり着いた。彼女は教室の隅で、妹尾と話していた。2人が並ぶと、もはや圧倒的な空気になる。自意識に目が向くのを自覚しながら、こんな時なら「わたし」は空気は読まない、と考え直す。
妹尾は男だけれど、本当に美しい。はっとさせられる。スマホのカメラフォルダを確認して、静止画でも他撮りでも全く色あせない妹尾と荒田咲のペアを見て、これはずっと保存しておくかもしれない、と思う。わたしが写りこんだものは、きっと帰ってから消すだろう。
適当に何かを言おうとしたわたしの横を、荒田咲が通り過ぎていく。彼女のカーディガンのポケットからは、パンダのマスコットが顔を出していた。
それに気づいたわたしは、自分の思考が束の間、止まったのを自覚する。
外をちらっと見る。相変わらず外は明るい。そうか、と太陽を一度視界に入れてから目をそらして教室を見る。教室の中は暖房が入っていて、その熱がぼんやりと輪郭を溶かしている気がする。
外の方が寒いに決まってるのに。
気が付くと教室から人はまばらになり、静かになっていた。もうみんなはそろそろ次の場所へ移動したのだろうか。わたしはこれからどうしようか。とりあえず今日で終わりなのだ、この小さい箱と付き合うのは。
行先はとりあえず外に出てから考えようと、鞄を持って廊下を出る。窓から見える梅の木を見て、あぁ枝ごといってる、と思ったときだった。
前からバタバタと足音がして、ちょうどわたしが廊下を曲がろうと角に差し掛かったところで、正面から誰かがわたしにぶつかった。顔を上げたのはわたしの苦手な女だった。三枝の幼馴染の、里英子だ。
ぶつかってきた張本人はなぜか冷めた目をわたしに向けてくる。とっくに気づいている、この女がわたしを敵視していることなど。