きみを守る歌【完結】

悲しい自覚を言葉にしなければならないとようやくわかった頃には、取り返しがつかなくなっている。だけどもう私はきっとこの先、誰にも逃げられないのだと悟った。



「ごめ、ごめん。ごめんノリくん―――」









普段はあまり泣くタイプではないんだ、と鏡を見て思った。これは霜田先輩に会えば大爆笑、ノリくんには「ヒッ」と声をあげられるレベルだ。

翌朝になって顔を洗ってから私も悲鳴をあげたくなった。自分でも庇いきれない、酷い顔をした自分が目の前にいる。



「飛鳥、何その顔?」



キッチンでお母さんが私の顔をまじまじ見ながら驚いている。テーブルに並んでいる手作りのホットサンドを見て、最近は洋食にはまったのか、と他人事のように思う。



「失恋……?した」

「えっ彼氏いたの!?」

「もし彼氏だったら地の果てまで追い回して縋りついてる」

「さすがお母さんの子ねぇー」



お母さんがカップにオニオンスープをつぎながらけらけらと笑った。私の両親は完全にお母さんが押しまくってなし崩しのようにして結婚したらしい。それを今聞くとすごいな、と思う。



「じゃあ片思いが実らなかったんだ。ウケる」

「傷心の娘を前にして何ウケてんの!?」



ホットサンドはサクサクで溶けたチーズとハムが入っていてかなりおいしかった。これが残暑が残りまくる9月の初めに出されていなければきっともっとおいしい、と思いながら私は飲み込む。

お母さんは私にスープを渡したあと、自分はキッチンに立ったまま口をつけた。


「だって諦めるのは早いと思うもん」

「何も知らないくせに……」

「ほんとほんと。根負けしたようにプロポーズを受けるお父さん、萌えたわよ」

「変態じゃん」


そこからお母さんは100回聞いた父親とのなれそめを話し始めた。そして私は母を見て、比較対象が娘といえど人間が世の中で一番関心のある人間は自分なんだな、という真理に似たことを悟る。


すっかり上機嫌になったお母さんはきっと私が傷心なのも忘れている。あきらめて着替えて学校の支度をする途中、ちらちらと鏡に映る自分の顔を受け入れることはできなさそうだ。


教室へ入って自分の席に着くと、もう登校していたももちゃんが不可解そうにしばらく私を見つめていた。挨拶もしてくれないで、どうしたんだろう。


「……?」