きみを守る歌【完結】

平然と言っているけれど私には何も理解できていない。頭の良い人って、馬鹿をすぐに置いて行くから嫌だ。馬鹿に伝わらない物言いなんて、馬鹿の数の方が多ければあっという間にマイノリティになって、賢くしゃべってるはずが馬鹿扱いになるんだぞ。これが世の中のパラドックスだぞ。



「あなたを、芹沢からとることができるかもしれないとしたら」



え、と思って振り返ると、ノリくんがすぐ私の近くまで来ていて、目線を合わせるようにしてしゃがんでいた。



「今の、辛かったでしょう。どうですか、逃げたくなりませんでしたか。私ならきっとあなたの気持ちを察してあげられるし、あなたが面倒なことを言っても受け入れられる」



ノリくんの言葉はどこか控えめで、だけど私を見つめながら時々揺れる瞳が、ノリくんの緊張を私に伝えてくる。冗談で言っているんだろうか。ノリくんはこんな時にくだらない冗談言う人だろうか。そうかもしれない。


もし本気で言っているとしたら、こんな愛の告白は人生で初めてかもしれない。だってノリくんはチャラくない。私はずっと、こんな言葉を待っていた。

私だけの目を見て、私だけのことを考えてくれる人を待っていた。





もう一度顔を上げてから、きっと本気だ、と思った。口を閉じて真剣な目をして私を見ている、ノリくんは優しい。ノリくんはこの世界で私にしか届かないくらいの小さな穏やかな声で、けれど語尾までしっかり言った。



「好きです」



それを聞いて新しい涙が溢れた。ああ私はずっと、こういう恋の始まりにあこがれていたんだ。この言葉こそが最高の、幸せの象徴であり私の夢の始まりなんだ。好きだとか愛してるとかいう、恋を始める愛の告白。







それがあの、調子のいい低い声だったら。私の学校の中で誰よりも綺麗に笑う人だったら。







そうふっと上がった小さな炎のように考えてから、私はまた絶望に突き落とされたような気になる。

こんな感情は知りたくなかった。ずっと目をそらして、調子のいい気持ちばかり持って生きていきたかった。だけどそれは、私がどうにかして手加減したり、抑圧したりできるものでは到底なかった。



「―――うっ」