こりゃ忘れるわ、と私は自分かばいつつ心の中でノリくんに謝った。
「そうじゃないよ、陽一、私のこと避けてるでしょ」
「なに言ってんの?」
正面から陽一と長時間目が合うのは、一か月ぶりだからか耐性がすっかりなくなっている。吸い込まれそうでほだされそうな目が、私の戦闘意欲を揺さぶってくる。
「自分が離れたいって言ったの忘れた?俺は飛鳥が望んだ通りにしただけだろ」
一度目を閉じてからまた陽一を見上げて、目の色を探る。何を考えているのかを必死に考える。もし、そうじゃないんだよ、と言ったらどうなるだろう―――陽一はそんな私の顔を見つめ返すと、口元だけで笑った。
「……なんでそんな顔してんの?」
いつかも言われたことだ。いつだっけ、クレープを一緒に食べた日だ。テスト明けの甘いクレープは最高においしかった。あれが私が知らん顔をしていられた、最後の瞬間だった。
「苦しい……っ」
なんとか絞り出した声には涙が混ざってしまう、あぁ情けない。
何を言ったらいいのだろう、私だって何も分かっていないのに。さっきももちゃんが励ましてくれた言葉が、頭の奥で溶けていく。だけど私はここへ来たのだから、何か言わなくちゃ。
どうすればいいの、どうして私はこんな気持ちになっているの。花火大会の日を思い出して、さらに胸を締め付けられる。キス、そうだ、全部それが原因だ。何度も、何度も。
「陽一はどうして私にキスをしたの、考えても分からなくて苦しい」
こんなことを言うのでさえ心の底から緊張して、どんな言葉が返ってくるのか、待っている瞬間は呼吸が止まりそう。だけど本当は私の中で、望んでいる答えが明確にあったのだと、次の瞬間に知る。
「もうしねーから安心しろよ、忘れろ」
なんてひどいことを言うんだろう、と途方に暮れそうになった。
答えにもなっていない。頭の中が強く揺さぶられた気分で、私はとっさに言葉が出てこない。そしてまただ、と思う。いつも私は突き放されてから、じわじわと自覚が沸く。愚かで遅すぎる自覚だ。
私は今、陽一からの優しい言葉を期待したのだ。
目に涙がたまっていく。情けない情けない、と思うと余計に涙がこみあげてきて、あぁもうこぼれる、と思ったときだった。
黙って私たちのやりとりを聞いていたノリくんが私の腕を引いた。
「そうじゃないよ、陽一、私のこと避けてるでしょ」
「なに言ってんの?」
正面から陽一と長時間目が合うのは、一か月ぶりだからか耐性がすっかりなくなっている。吸い込まれそうでほだされそうな目が、私の戦闘意欲を揺さぶってくる。
「自分が離れたいって言ったの忘れた?俺は飛鳥が望んだ通りにしただけだろ」
一度目を閉じてからまた陽一を見上げて、目の色を探る。何を考えているのかを必死に考える。もし、そうじゃないんだよ、と言ったらどうなるだろう―――陽一はそんな私の顔を見つめ返すと、口元だけで笑った。
「……なんでそんな顔してんの?」
いつかも言われたことだ。いつだっけ、クレープを一緒に食べた日だ。テスト明けの甘いクレープは最高においしかった。あれが私が知らん顔をしていられた、最後の瞬間だった。
「苦しい……っ」
なんとか絞り出した声には涙が混ざってしまう、あぁ情けない。
何を言ったらいいのだろう、私だって何も分かっていないのに。さっきももちゃんが励ましてくれた言葉が、頭の奥で溶けていく。だけど私はここへ来たのだから、何か言わなくちゃ。
どうすればいいの、どうして私はこんな気持ちになっているの。花火大会の日を思い出して、さらに胸を締め付けられる。キス、そうだ、全部それが原因だ。何度も、何度も。
「陽一はどうして私にキスをしたの、考えても分からなくて苦しい」
こんなことを言うのでさえ心の底から緊張して、どんな言葉が返ってくるのか、待っている瞬間は呼吸が止まりそう。だけど本当は私の中で、望んでいる答えが明確にあったのだと、次の瞬間に知る。
「もうしねーから安心しろよ、忘れろ」
なんてひどいことを言うんだろう、と途方に暮れそうになった。
答えにもなっていない。頭の中が強く揺さぶられた気分で、私はとっさに言葉が出てこない。そしてまただ、と思う。いつも私は突き放されてから、じわじわと自覚が沸く。愚かで遅すぎる自覚だ。
私は今、陽一からの優しい言葉を期待したのだ。
目に涙がたまっていく。情けない情けない、と思うと余計に涙がこみあげてきて、あぁもうこぼれる、と思ったときだった。
黙って私たちのやりとりを聞いていたノリくんが私の腕を引いた。

