きみを守る歌【完結】

雨が止まないのに涼しくないのは変だ、と思う。不愉快な要素が被っていて、どこにも救いがない、と思ってから天気に対して大げさだったなと思い直す。

不愉快な要素が被っている、というのは私の現状に近しいものがある。


あ、とノリくんが声を上げたのでつられて入口を見ると、陽一の姿が見えた。


すごい、ももちゃん、場所も、タイミングまでビンゴだ。私はここまで来たんだ、と思いながら怖気づく心を抑えつけて陽一に近づいた。陽一の斜め後ろには、予想通りだけどセイラちゃんがいる。陽一よりも一足先に私に気づいた彼女は、不愉快そうだけれどこないだほど警戒していないような目をしている。

余裕、なんだろうか。


「陽一っ」


陽一は私の声に、振り返るよりも先に足を止めた。その動作ですら、私には読めない。


もう一度名前を呼ぶと、無表情の陽一が私の方を見る。視線が絡んでから、怖気づいた。こんな表情は、久しく見ていない。へらへらが標準装備の陽一が、無表情で私を見る。

馬鹿で鈍感な私でも分かる、拒絶に近いそれが目に飛び込んでくる。



「陽一っ」


「名前呼んでないで、用件言ってよ」



そう言いながら陽一は笑った。優しそうな柔らかい声が、こんなにも言葉どおりに伝わってこないのはもんなのか、と思う。私は心臓が鳴っているのを自覚しながら、怖気づく自分から必死で目をそらす。



「話があるの。まだ言ってないことがあったの」



言いながら先のことを考えていない。私は何を言うんだろう。陽一は少し困ったように頭を掻いてから背後を振り返った。



「……セイラちゃん、ちょっと先歩いてて」

「え、でも」

「30秒で追いつくから」



そうですかぁ、とセイラちゃんは少し伸びた声を出してから傘を開いた。私は30秒、という言葉を頭で繰り返して、そのたびに脳みそで分解も吸収もされずにさまようのを感じる。

まだ信じられないのだ、陽一が私を傷つけるだなんて。



「で、飛鳥は何?またノリくんと一緒じゃん、付き合う報告でもしに来たの?」



陽一に指摘されて私はノリくんに送ってきてもらったことを思い出す。かなり申し訳ないけれど、言われるまでノリくんの存在を忘れていた。振り返るとノリくんは、また興味の薄そうな顔をしてどこかを見ていた。