きみを守る歌【完結】

「送りますよ、傘持ってきてないんでしょ。低能だから」

「優しそうなこと言いつつ罵倒する癖直んないね!!」


ももちゃんといるときは自分はボケ役だと信じて疑わなかった私が全力でつっこんでいるのにも関わらずノリくんはクスリともしない。分かった、呑気にボケていた私が最近つっこむことが多いのは、私の周りにまともな人間がももちゃんしかいないからだ。


「いいよ、人を詰めにいく用事があるし」

「無駄にやくざみたいなこと言うじゃないですか。誰のところですか、って聞いても分からないか」

「陽一」

「……でしたら、なおさら送りますよ」


顔を上げるとノリくんが早く乗れよ、と言わんばかりに車を指さした。


「え、どうして、なおさら?」

「自分のことをどこまで過大評価しているのか知らないですけど、あなたに雨に打たれて登場されたらホラーですよ。それ以上深海魚みたいになってどうするんですか」

「初めて言われたけど!?」


そう答えつつ私はノリくんの厚意に甘えることにした。深海魚はさすがに誇張表現だと信じたいけれど、少しでもマシな姿で陽一の前に現れることができるのはありがたい。

車をたった数分走らせたところに、大きな映画館のついたモールがある。たどり着いて車から降りたはいいものの、私は陽一が何時の何という映画を見ているのか知らない。


「ありがとう、ノリくん」


そう言って屋根のあるところまで歩いてから傘を閉じ、けれど入口の前で立ち止まった私をノリくんは運転席から不審な目で見た。私が黙って手を振ると、しばらくして車から出てくる。


「どうして入らないんですか」

「入口で待ってるのが一番手っ取り早いと思って」

「は?待ち合わせじゃないんですか」

「違うよ、詰めに来たの」

「はあ?」


ノリくんが呆れたように不可解だという返事をしたので、確かに、と思う。傍目から見れば無謀で、馬鹿で、計画性のないことをしようとしている。


「何時になるか分からないから、ノリくんは言っていいよ」

「なに言ってるんですか。馬鹿ですか?携帯で呼び出してくださいよ」

「映画中は携帯見れないんだよ知らなかったの?」


ノリくんが黙ったまま私のほうを見た。だんだん何考えてるか分かるようになってきたぞ。どうせそういう話してんじゃねぇよ、とか思ってるんだろうな。