「っていうかもう逃げられない。腹くくらなかったら、もう飛鳥が傷ついて後悔する未来しかないよ」
「……分からないよ、わからない。花火の日にキスされて、そうなんだって思ったあとに、近づかないって言われて前が見えなかった。振り落とされる気分だった、暗い暗い沼に落とされるみたいで」
「そうなんだ、じゃないでしょ?嬉しかったんでしょ、期待したんでしょ」
私はずっとまとまりのない言葉を繰り返しているのに、ももちゃんは全部分かってるみたいに私の言葉に相槌を打つ。それに違和感を覚える。なんでももちゃんは、私のこの意味が分からなくて永遠に収拾のつかない感情が、まるでこの世にすでに存在してるみたいに扱うんだろう。
「映画館って言ったら多分あのモールでしょ。今すぐ行きなよ、残りやっとくから」
「無理だよ、行って何言うの、私が離れたいって言ったのに」
「ああもう臆病だな!臆病すぎて引くわ!どうせ映画デートって、セイラちゃんとでしょ。嫌でしょ、嫌だよな、飛鳥?」
夏休みに何度も陽一と会ったらしい、勝ち誇ったようなセイラちゃんの笑顔を思い浮かべて私は頷く。じゃあ行けっ、とももちゃんに指をさされてようやく私は立ち上がった。
靴を履き替えてから私は自分が傘を持ってきていないことに気が付いた。雨はやや強く、このまま走ったら2分でびしょ濡れになりそうだ。モールの中をベタベタに濡れて走る女子高生を想像して少し心が冷える。
じゃあ外で待つか、と思って外に出ると、見たことのある車が停まっていた。
「あ」
「ノリくん、なんでここに?先生に見つかったらやばいんじゃないの」
「確かに少々具合は悪いです。ただ坊ちゃんに、雨だから迎えに来てほしいと連絡があったので」
心の中がずっと緊張している私にとって、いつも通り平淡に話すノリくんの口調はなんだか空気に不釣り合いな気がする。そうなんだ、と返事をするとノリくんが顔を歪めた。だんだん分かってきたぞ、基本的に感情をあまり顔に出さないノリくんが顔をゆがめる理由はいつも坊ちゃん関連だ。
「しかしやっぱり百瀬さんと公共交通機関で帰宅するとの連絡があり……」
「ノリくん弄ばれてんな!」
悔しそうに下唇を噛んだノリくんは、次の瞬間に私に向き直ってついでですし、と言って傘を差しだした。
「……分からないよ、わからない。花火の日にキスされて、そうなんだって思ったあとに、近づかないって言われて前が見えなかった。振り落とされる気分だった、暗い暗い沼に落とされるみたいで」
「そうなんだ、じゃないでしょ?嬉しかったんでしょ、期待したんでしょ」
私はずっとまとまりのない言葉を繰り返しているのに、ももちゃんは全部分かってるみたいに私の言葉に相槌を打つ。それに違和感を覚える。なんでももちゃんは、私のこの意味が分からなくて永遠に収拾のつかない感情が、まるでこの世にすでに存在してるみたいに扱うんだろう。
「映画館って言ったら多分あのモールでしょ。今すぐ行きなよ、残りやっとくから」
「無理だよ、行って何言うの、私が離れたいって言ったのに」
「ああもう臆病だな!臆病すぎて引くわ!どうせ映画デートって、セイラちゃんとでしょ。嫌でしょ、嫌だよな、飛鳥?」
夏休みに何度も陽一と会ったらしい、勝ち誇ったようなセイラちゃんの笑顔を思い浮かべて私は頷く。じゃあ行けっ、とももちゃんに指をさされてようやく私は立ち上がった。
靴を履き替えてから私は自分が傘を持ってきていないことに気が付いた。雨はやや強く、このまま走ったら2分でびしょ濡れになりそうだ。モールの中をベタベタに濡れて走る女子高生を想像して少し心が冷える。
じゃあ外で待つか、と思って外に出ると、見たことのある車が停まっていた。
「あ」
「ノリくん、なんでここに?先生に見つかったらやばいんじゃないの」
「確かに少々具合は悪いです。ただ坊ちゃんに、雨だから迎えに来てほしいと連絡があったので」
心の中がずっと緊張している私にとって、いつも通り平淡に話すノリくんの口調はなんだか空気に不釣り合いな気がする。そうなんだ、と返事をするとノリくんが顔を歪めた。だんだん分かってきたぞ、基本的に感情をあまり顔に出さないノリくんが顔をゆがめる理由はいつも坊ちゃん関連だ。
「しかしやっぱり百瀬さんと公共交通機関で帰宅するとの連絡があり……」
「ノリくん弄ばれてんな!」
悔しそうに下唇を噛んだノリくんは、次の瞬間に私に向き直ってついでですし、と言って傘を差しだした。

