きみを守る歌【完結】

気が付いたときには雨が強くなり始めている、と思ってグラウンドを見るとサッカー部の人たちがわあわあ言いながら荷物をまとめ避難し始めているのが見えた。だから弱小なんじゃないか、と他人事のように思う。



「だって離れたいって言っておいて連絡来ないのは当たり前じゃん」

「分かってるよ」

「分かってない。分かってないって顔してる」

「どういうこと」



分かっている、私が離れたいと言ったのだ。陽一はそれを受け入れたまでだ。だけど私はあの日に確かに気づいたことがあって、その気持ちとなるべくしてなった今の状況に、折り合いがつけられないのだ。



「二限のまえ、芹沢がここに来たとき少し、期待したよね?」

「、」

「飛鳥と芹沢のことずっと見てきたから分かるよ。それに女だから分かる」



正面からももちゃんと目が合うと、ももちゃんは目から呆れた色を消して、真剣に諭すような表情になる。私は、私よりも状況と人の感情を理解しているに違いないももちゃんのことが少し怖い、と思う。


「セイラちゃんの気持ちも、あいつはやりすぎだけど少しだけど分かるよ。本気で恋をした人の周りに、関係ないような顔しながらずっと好きな人を支配し続ける女がいたら許せない」

「支配なんかしてないよ」

「そう見えるんだよ。好きな人の周りにいる女なんか全員敵だよ。しかもそいつが無自覚だったらなおさらふざけんなって思うよ」


ももちゃんの言う無自覚、というのが分からない。だけど私にはあんまり理屈が理解できなかったセイラちゃんの主張を、ももちゃんはどこか共感するらしい。

分からない。確かに私は香住先生や霜田先輩を好きだと思ったとき、周りにいる女は全員敵だと思った。だけど私と陽一なんてなんでもないんだ。なんでもないんだ、陽一にとってみれば。



「わかんないよ。だって嫌だもん、陽一あいつ、外に彼女何人いるんだよって」

「それが嫌なのはなんでなのよ」

「嫌って、嫌じゃないけど。勝手にすればいいけど、だから私は陽一に興味を持ったりしない」

「逃げんな、飛鳥」



興味を持ったりしない、という言葉のどこにも信憑性が無いのは言葉にした瞬間の喉の違和感ですぐに気づいた。ももちゃんがぴしゃりと言うから私はホチキスの手を止める。