あれ今のってちょっとまずかったんじゃないか、と、いつもどおり口先先行で言葉を並べてから気が付いた。


「いや変な意味じゃないから狼狽えないでいいから」

「楽しいことってー、あー、ごめん他に思いつかないわ」

「面白い話しろってこと一発芸しろってことピエロになれってこと!」



私の返事を聞いていないのか陽一は顔を寄せてくる。私は違う、と言いながら何が違って何が起きようとしているのか、頭の中でひたすら考える。それに対して何も考えずに楽しそうに笑う陽一が私の耳に顔を寄せて言った。



「2人っきりの密室だね」

「なに?これ全然面白くない助けて」



陽一はスイッチが入ったようにニヤニヤ見てくる。おかしいだろ、何だこれ!こんなラブコメ的展開は求めてない、少なくとも陽一にはな!

古いエレベーターのドアを叩いてみるが応答はない。どの部分で止まってるんだよ!と握りこぶしをもう一度振り上げると陽一にその腕をぱしっと掴まれた。


「ひゃああ触るなモンキーモンチッチ」

「飛鳥って死ぬほどムカつくけどいいよね。征服したくなる」

「せせせ制服は着るもんだし?動詞じゃないし?お勉強も分からなくなったのか?色気づいてるからだよ!」


俺に向かって勉強のこととやかく言うとかいい度胸じゃん、とかいう陽一の声が、必要よりも、想像よりも近くで聞こえる。近いよ、と思うとすぐにおなかに腕をまわされて、陽一に後ろから抱きしめられる形になった。


「ねえ離して……!」

「こんなドキドキしてるのに?」

「胸さわんな……!」


確かにドキドキしているかもしれない。でもそれは陽一が必要以上に近づいてくるからであって、これは一種のアレルギーみたいなものだ、と思う。いつも息ができなくなる、陽一が私に触れるたびに。

そんなことを考えているとありえない距離でちゅっと音が立った。どうやら耳にそのままキスされたようで、音が、かなりダイレクトに、いやらしく響いてくる。


「ひああぁ何してんの……!」

「もうだめエロい気分になった」

「これアウトでしょ法的に!多面的に!ていうか不審者はきみだろ!」