きみを守る歌【完結】

顔を上げるとセイラちゃんと目が合った。その目は睨むわけではなく、少し勝気に、私の意思を底の方から汲み取ってやろうという意欲が感じられた。たった少しの動揺さえ、隠せない気がする。



「着きましたけど」



そこにノリくんの声が入って私たちの緊張の糸は切れた。私が何かを言い返す前だった。

セイラちゃんはありがとうございました、と地声であろう低い声を出すと、車から出て一度も振り返らずに歩いて行く。


私は意識しないうちに、去年の夏休みのことを思い出していた。どうして去年は夏休み、あんなにも陽一と遊んでいたのだろう。どうして学校でも、放課後も、私は陽一と一緒にいたのだろう。

全く遊ばなかった今年の夏休みと比較して考えるととても簡単だった。

いつも陽一が私を呼んでくれたからだ。


いつから私は陽一のなかで、彼から離れられない可哀想な女になっていたのだろう。




「最近の女子高生は、世界には自分たちだけが存在すると思ってるんですか」

「どういうこと」

「無関係な人がいるからちょっとこの話はよそう、みたいな礼儀も恥もないんですね」



ノリくんが不快感をあらわにして初めて私はそのことに気が付く。そうか、セイラちゃんが私を許さないとか陽一が好きとかお前がうざいとか、ノリくんには関係ない話なんだ、と思うとノリくんの言うことは図星だ。


「まあ私は気にしてないですけどね、心配になっただけです。どこでもあんな周りを気にせず自分の気持ちを叫んでるのかと思って」


ノリくんは淡々とそう言ったので、よかった気分を害したわけではなさそうだ、と安心する。そのまま私が何も言わないでいると、変な空気が流れる。

ノリくんはさっきの会話で、大体のことの流れを察したのかもしれない。

どうしようかな、今日は私もおとなしく帰ろうかな。そういえば課題も前進していない、と思うと寒気がした。要領の悪い馬鹿は課題に割かなければいけない時間が尋常でないのだ。

考えるほどこの後の予定は頭の中で勉強一択になる。ちゃんとノリくんにそう言おう。そんなにも真面目で賢いとは思っていませんでした、って尊敬されるかもしれないな。

ノリくんが私のことを好きになってしまったらどうしよう。だけど今日は宿題だ。私は生まれ変わるのだ。



「アイス食べに行きますか」

「行く!!」