きみを守る歌【完結】

幾らなんでも極端な話だ。周りよりも太っていたら友達ができない、彼氏ができないなんてそんなことがあるとは思えない。性格に原因があるんじゃないのか、と言うのはやめておく。

けれど苦しんできたんだろうな、と思うと適当にコメントすることができない。考えていると、セイラちゃんが少し柔らかい口調になって言った。


「でも、あの人は違った」

「あの人?」

「通学中に、学校で使う重たいクーラーボックスをひじにかけていたら、うっ血してたんですよ。あの人はそれに気づいて、中学校まで運んでくれたんです。いいです、重いでしょって言ったら、荷物を譲ってくれずに、こんなの他の男に持たせろよ、女の子なんだからって言ってくれたの」



セイラちゃんは私とは目を合わせずに、どこかの記憶へ飛ぶような遠い目をして言う。



「初めて女の子扱いしてくれたのがあの人だった。あの頃の私はあんなに醜かったのに、卑屈で、プライドだけ高くて」


「そこは別に変わってないよね」

「それが本当に本当にうれしくて、あの人に似合うようになるためなら頑張れると思った。追いかけて高校入ったら、彼女みたいな人がいるって分かって」


私が言ったことは軽くスルーされた。まあいいんだけど。彼女みたいな人、ってことは、彼女ではなかった私を指しているのだろう。


「大したことない女だと思ったら、許せなくて」


セイラちゃんの声色が変わる。思い出に浸る切ないような優しいような声から、一気に戦闘態勢になったのだ。

悪口を言わないことをモットーにしているはずの彼女が、面と向かって私に悪意をぶつけてくるのは、自分の並々ならぬ努力がその下にあるからなのだろう。



「他の女の子が頑張っても手に入れられない権利を、ただ幼馴染っていうだけで何の努力もせず当たり前のように持っていて、それが責められないことだと思う方がおかしい」


「分かるようで分からないんだけど……」





セイラちゃんがすごくストイックなのは分かったし、その分魅力があって自信があって、綺麗だと言うことは分かる。だけどその矛先が私に向くのはどうなんだ。

それからセイラちゃんの言う「当たり前のように持っている」という言葉には疑問符だ。




「でも別にもう何かする気はないです。夏休み、陽一先輩と何度か出かけましたから」