きみを守る歌【完結】

途方もない数字に卒倒しそう。だけど本当に努力したんだなあ、と思うと段違いにキツイ性格であるのもどこか納得がいく気がする。とてもストイックな人なんだ。



「そっか、セイラちゃん、ただの美人じゃないとは思ってたけど、偉大なる美人なんだね」

「……は?」


うっかりセイラちゃん、と名前を呼んで話してしまったけれど、背後でまだまだ盛り上がっている集団には気づかれていないようだ。


「もっとすごい美人ってことじゃん。生まれつきアイドルなのかも思ってたけど」

「……そんなわけないでしょ」

「意外と嫌われてるしね」

「まあ、そんなことは知ってたけど」


セイラちゃんが低い声のままそう言う。それがさっきまでの動揺と打って変わって、本当になんでもないことを言うような声色だったので私は驚いてしまう。


「あんな高い声で可愛い可愛い言ってたのに?」

「イヤそれは別に関係ないし。私がどんなキャラでいようと根性は態度に出ますよ」


え、自覚してたのかよ。そう言わなかったけれど私の目を見て察したらしいセイラちゃんは、面倒そうに溜息をつく。


「どんなに私が無神経でも空気が読めなくても、パッと見無害な美人だったら、悪口さえ言わなければモテるようになってるんですよ、世の中」

「計算尽くしてる……」


ふと前を見るともはや完全に話から離脱したノリくんは静かに本を読んでいた。


「だけど絶対一定数には嫌われるようにできてるんです。ほら、聞いてください」


セイラちゃんが大きいけれど鋭い目で背後を目くばせした。私はまだ騒いでいる集団の声に耳を傾ける。すると一体感が生まれたその集団からは、恥を棄てたような美しくない感情のこぼし合いが始まっていた。



「てか、セイラがああやって媚売りまくるから、うちらが性格悪い扱いされるじゃんね」

「それ!自信満々だし、誰にでも同意してる振りしてさあ、絶対に拓のこと狙ってるよね」



なるほど、と頷く。自信満々であることと、誰にでも同意することと、拓を狙っていることの、どこにも関連性がないけれど適切でない接続詞を使って文章がつながってしまう時点で、建設的なことを言っていないことは明白だ、ということよりも、ただの妬みであることが分かった。



「あー、そろそろ戻らないとトイレで死んでると思われちゃいますから」