きみを守る歌【完結】

盗み聞きしてるみたいで悪いな、と思いつつ、今の私とノリくんのテンションでは背後の声をかき消すことは不可能だ。仕方がないのでそこは堪えることにした。



「このチーズケーキ超可愛い!」

「本当だ!えっ待って、フォークも可愛いー!」



私とノリくんは黙っていちごパフェを食べる。



「え、ゆこはミニパフェ食べないの?」

「だって写真が可愛すぎるからー」



私は残っていたいちごをスプーンですくい上げてよく見てみる。近くで見れば見るほど、ただの鮮やかな赤ではなく綺麗とは言い切れないくすんだ茶色の種、さらに産毛のようなものが見える。

少し遠くから見てみる。アイスと生クリームを食べた後の荒らされたパフェのグラスは言うならば荒野だった。


「…………」

「無理に共感しようとしなくていいですよ」


色々な角度からいちごパフェを観察する私にノリくんが呆れた目線を送ってくる。ばれていたか。


「すごいよね、こんなに何でも可愛いなら人生楽しそう」

「あなたは無自覚にマウンティングするタイプですね」


マウンティングって何、と聞き返そうとしたところで、背後のきゃっきゃガールズのうち一人が立ち上がった。声を聞いて私はすぐにその人物を認識する。

と言っても、きっと後輩の集団だから、そもそも知っているのが一人だけだけど。



「おトイレ行ってくるねぇー、」



そう言ったセイラちゃんが一人席から立つと、遠ざかっていった。どうやら私に気づいてないらしいので好都合だ。気づいたらどんな罵倒されるか分からない。

私を罵倒してくる人は何人も会ったことがあるけれど、今まで経験してきたそれは愛があったことに、セイラちゃんに出会って初めて知った。あれは遊びでやってないやつだ。


「……ふー」


あれ、なんだか背後が静かになった。もしかして、セイラちゃんが居ないとさっきのテンションを保てない集団なんだろうか。だとしたらセイラちゃん、強すぎる。

次の瞬間に私は、それが勘違いだったことを知る。



「セイラのあの声さぁ、どっから出てんだろうね」

「ヘリウムガス入れてんじゃね」

「ははは!」



私は背中がゾクリとするのを感じた。こんな現象は漫画の中でのみ起こることだと思っていたからだ。

自分たちの声もまあまあ低いぞ!


「てかさ、やばいもん見つけちゃった」