きみを守る歌【完結】

「ああ……D……定数k……!?え、こことここの角度が同じ……!?絶対嘘だろ……!」

「すみません、ご注文でしたか?」


顔を上げると女の店員さんがハンディを取り出して私のほうを見ている。数学が分からなさ過ぎてブツブツ言っていたのが、注文したいけど声を張れない人みたいになっていたらしい。


「えっ……あの……いちごパフェを」


かしこまりましたー、と言って去っていく店員さんを見て我に返る。買う予定のないものを買ってしまった。まあ夏休みの間ほとんど出かけなかったからこのくらいの出費は全然いいけど。


「注文すれば許されると思ってるんですか、その不審者のような独り言」

「いや、そういうわけじゃないんだけど、つい、ってノリくん!!」

「いつも大声で名前呼のやめてもらえませんかね。仲間だと思われるじゃないですか」


そんなことを言いつつノリくんはちゃっかり私の向かいの席に腰を下ろす。花火大会ぶりだ、と思うと結構な頻度で会っていることになる。連絡取り合っているわけじゃ全くないのに。


「こんな高頻度で私の前に現れるなんて……もしかしてノリくん……」

「出た出た、恒例の勘違い大会ですね」

「ニートなの?」

「今度はそっちか!この際なんでもいいですけど」


言ってからノリくんはドリンクバーとパフェを注文した。だって平日の昼過ぎって言ってもまだサラリーマンの定時にもならないであろう時間帯だ。


「使用人にも夏休み休暇があるの?」

「いいえ、ただ最近は出かけてばっかりで、さらに私についてきてほしくないというものですから……」


ノリくんが苦悩したようにうなだれる。ああ、なるほど、と私は納得した。私が夏休みとんと暇だったのと同じ理由だ。


「最近では送迎も拒否されるんですよ……っ一般人の百瀬さんが嫌がるから、と言って公共交通機関の使い方も覚えられ……」


お金持ちと付き合ったらその感覚に影響されて贅沢三昧なのかと思っていたけれど、逆もあるのか。そう思うとももちゃんはしっかりしていてさすがだな、と思う。


「そういえば霜田先輩ってお金持ちなのに私たちみたいに公立高校に居るのってちょっと変だね」

「まあ坊ちゃんはあの通り奔放ですから、私立の中学校を退学なさって以降、公立の方に」

「退学になったんだ!?そのころは何しでかしたの?」