きみを守る歌【完結】

こないだノリくんと見たときの女の人とは、また違う人だ。


あまり遠くない距離だった。けれど陽一は、私たちにはまるで気づく素振りもなく、すれ違うようにしてフードコートから出ていく。



「飛鳥に気づかなかったなんて、めずらしいよね」



そうももちゃんに言われて、反応に戸惑った。
あれからたったの数日間だったけれど、夏休みに入るまで、陽一は学校へ来なかった。半日授業だったから大して痛くないのかもしれないけど、本当に大丈夫なんだろうか、進級できるのかな、あの人。

とにかく会ってなかったからももちゃんは、私と陽一の間に起きたことを知らない。

だけど私は、陽一がたとえさっき私たちに気づいていたところで、何も見なかったような顔をして通り過ぎたんだろうと思うのだ。

束の間そんなことを思っていたことを、見抜いたようにももちゃんが私を上目で見ていることに気づく。



「……飛鳥って案外、芹沢とのことは教えてくれないよね」

「えっ」

「いや、無理に話せってわけじゃないんだけど。意外と秘密主義?なのが意外だと思ってて」



意外って二回言った、と思いながら、そんな風に思われていたことを初めて知る。私自身はももちゃんに秘密にしよう、なんて思ったつもりはないのだ。

むしろももちゃんのことは大好きで信用してるから、何でも話している認識でいた。そして少し考えて気づく。



「自分でも分からないんだ、だから、何も言えないのかも」

「へえ!」

「なんでそんな嬉しそうなの」



少し拗ねた顔をしてそう言うと、ももちゃんが笑いながらストローをまわした。まだかろうじて氷が残っているグラスは、水の混ざったような、歯切れの悪いカラン、という音を作る。



「いや、前までは嫌い!興味ない!人間じゃない!って突っぱねてしかなかったのに、わからない、になったかぁ、と思って」

「え……そうだっけ」

「いいじゃん、前進じゃん」



曖昧な返事しかできない自分が嫌になって席を立つと、結局私は牛丼屋に並んだ。



ああ言ったももちゃんの中で実はほとんど答えが出ていたことを、私は少し後になってから知る。


夏休みがほとんど終わりそうな8月下旬、私は終わらない課題に追われてファミレスでコーラを啜っていた。