「付き合ってないの!?」
「そんなに驚くことでもないでしょ」
ももちゃんが少し呆れたようにオレンジジュースを啜った。クーラーがかかっている室内といえど、夏だからだろうか。グラスが結露して、まるで汗を掻いているみたいだ。
15時ごろのフードコートは、平日なのもあってそんなに混んでいない。
「でも、花火一緒に見たんでしょ?」
「見たよ。花火はよかったよね、最後の連発が特に」
「最後、連発だったんだ」
ももちゃんが見てないの?と驚いた目をしたので、私は曖昧に笑った。
「でも、ももちゃんは霜田先輩のことが好きなのかと思ったんだけどな」
「えー、あー、難しい」
「何それ」
何か食べようかな、と思いながらフードコート全体を見渡す。暑いからアイスを食べたいけど、何気に釜揚げうどんにそそられている。自分が今何を求めているのか定まらない。
ももちゃんの話を聞いてから考えよう、と思ってももちゃんに視線を戻すと、説明しづらそうに首をかしげている。
「なんか怖いんだよなー」
「霜田先輩が?」
「先輩っていうか、先輩もそうだけど、自分が」
―
怖いって、どういうことだろう。漠然と考えながらももちゃんの結露したグラスに目を落とす。ももちゃんは細い人差し指をグラスの底から水滴を掬うように上下させている。
「この人を好きかも、って思う瞬間って怖くない?なんか、底のない沼に落ちていくみたいで」
つまり好きなんだ、と思いながらも私はその感情にはかなり身に覚えがあった。信用したくない、と思った、それは底なし沼だと思ったからだ。
「何も思ってなかったころに戻れないじゃん。だからちっともうまくいかなくても、とんだ最低野郎でも、なかったことにしてリセット、ってなかなかできないでしょ。それって怖いよね」
「ももちゃんでも、怖いとか、思うんだね」
「誰でも思うんじゃないかなあ。まあ色んな人がいるし、色んなかたちがあるとは思うけど」
私は村崎くんや香住先生や霜田先輩を好きだと思ったとき、そんな気持ちになっただろうか。
「あ、芹沢だ」
その名前を聞いて、ドキリとせずにはいられなかった。不自然にならないようにゆっくりと振り返って、予想通りだったけど女の人と歩いている陽一を見つける。

