ももちゃんの方を見ずにそう言うと、ももちゃんは掴んでいた私の手首を離した。

ああいやな言い方してしまった、と思いながらエレベーターを探す。なぜかついてくる陽一にも、文句を言う気にもなれなかった。


「なんかこのエレベーター古くね?本屋の雰囲気に合わねー」

「じゃ、階段使いなよ。そんでどっちが早く1階に降りるか勝負しよ」

「ここ6階だよ?」


エレベーターのドアが開くチン、という音はやはり古めかしかった。ももちゃん、いやだったかな。私の言葉に、いらついたかな。月曜までには機嫌を直してくれるかな。謝った方がいいだろうか。

エレベーターの壁は灰色のマットのような生地で、埃が溜まってそうだなあ、と思いながら触ってみると、ふわふわとしていて手触りは悪くなかった。


「飛鳥ー」

「なーに」

「あ、珍しく普通に返事した。可愛いね」

「からかわないで刺すよ」


1階のボタンを押すとエレベーターのドアはまた鈍い音を立てて閉まった。


「からかってないこと、証明してやろうか」


なんて適当なことを言うんだろう。


「声が近いから離れて早急に。それか降りて今すぐ」

「ばっか、エレベーターだって最近物騒なんだよ。一緒にいる限り俺が飛鳥をすべての危険から守らないとね」

「エレベーターのどこから不審者が沸いてくるんだよ」


そういうことじゃねぇよ、という陽一の声は、不審な機械音にかき消された。形容しにくい、ただ思い金属がこすれたような低い音が数回にわたって聞こえる。

そして突然、エレベーター内の証明が落ちた。


「はっ?なに?」


これは、間違いじゃない。エレベーターの動作そのものが停止している。
え、と思って言葉が出ないでいると、うしろから陽一の能天気な声が聞こえてきた。



「停電っぽいねー」

「え、でもうす明かりついてるじゃん」

「非常用のバッテリーっしょ」

「え……停電でエレベーターが止まるとか何事?は?いつの時代のエレベータ??」



私が焦ると陽一が焦るな焦るな、と私をなだめる。どうしよう、これってかなりピンチじゃないだろうか。生きて帰れるのだろうか。私の不安を背中で察したのか陽一は大丈夫だよ、と言う。


「絶対動くから平気だよ。不安になると重くなるから楽しいこと考えようぜ」

「じゃあなんか楽しいことしてよ今すぐ」

「え、」