「私から離れればいいじゃん!誰かと付き合って、私の前からいなくなればいい!陽一が同情して私のこと可哀想って私に近づくから、靴が無くなって教科書八つ裂きにされて、嫌われることしてないのに嫌われてっ」
思ってもないこと言ってるなぁ、なんて思えたのは後になってからだ。別に靴が無くなっても教科書が八つ裂きにされても、本当は平気だった。
私が許せなかったのは、陽一が私のことを可哀想だと思っている、ただそれだけだった。
だけどそれを言う勇気は、私にはない。と自覚すると怒りが少しずつ消えていって、ただ悲しくて悔しい気持ちがくっきりと残る。
「何……?それ、何だよ?飛鳥、誰にそんなことされたんだよ?教えろ」
「誰にでも。陽一が好きで私を嫌いな人すべて」
そして私は、今まできっとわざと言ってこなかったことを口走っていた。
「もう陽一と離れたい。本当に離れたい」
きっとそれは、可哀想だと思われるよりはましだ。
陽一が返事をしないから、私は自分が言ったことを頭の中で繰り返した。離れたいだって、そもそも付き合ってないのにこんなこと言って、変なの。そう言って自嘲して笑ってやろうと思ったときだった。
強引に後頭部を引き寄せられて、陽一の唇が私の唇に押し当てられた。
「―――ん、っ……!」
泣きまくったからきっと私の涙が陽一の手や頬についている、そんなことを思いながら私は陽一の胸を押し返す。だけどそれは意味のない抵抗だった。
馬鹿なのか、私が言ったことを聞いていたのか。
それともこのキスが、私が言った離れたい、という言葉に対する拒絶なのか。
だったら納得いく言葉で、私を安心させてよ。
そう思った瞬間に私は自分のことを少しだけ具体的に理解した気がする。
陽一は私から顔を離すと、鼻先が当たりそうな距離で私の目を見つめた。次は何と言うんだろう、と思ったときに、近距離なのに息もかからないほどの僅かな、冷静な低い声が私を突き刺した。
「――――分かった。もう、近づかない」
陽一の背後で上がった花火は、悲しい自覚を私に運んできた。
―
離れる合図にキスだなんて、欧米人かと言ってやりたい。
だけどそれを言うことも叶わぬまま、あれ以来陽一と一度も会話をせぬまま、夏休みが始まってしまった。
思ってもないこと言ってるなぁ、なんて思えたのは後になってからだ。別に靴が無くなっても教科書が八つ裂きにされても、本当は平気だった。
私が許せなかったのは、陽一が私のことを可哀想だと思っている、ただそれだけだった。
だけどそれを言う勇気は、私にはない。と自覚すると怒りが少しずつ消えていって、ただ悲しくて悔しい気持ちがくっきりと残る。
「何……?それ、何だよ?飛鳥、誰にそんなことされたんだよ?教えろ」
「誰にでも。陽一が好きで私を嫌いな人すべて」
そして私は、今まできっとわざと言ってこなかったことを口走っていた。
「もう陽一と離れたい。本当に離れたい」
きっとそれは、可哀想だと思われるよりはましだ。
陽一が返事をしないから、私は自分が言ったことを頭の中で繰り返した。離れたいだって、そもそも付き合ってないのにこんなこと言って、変なの。そう言って自嘲して笑ってやろうと思ったときだった。
強引に後頭部を引き寄せられて、陽一の唇が私の唇に押し当てられた。
「―――ん、っ……!」
泣きまくったからきっと私の涙が陽一の手や頬についている、そんなことを思いながら私は陽一の胸を押し返す。だけどそれは意味のない抵抗だった。
馬鹿なのか、私が言ったことを聞いていたのか。
それともこのキスが、私が言った離れたい、という言葉に対する拒絶なのか。
だったら納得いく言葉で、私を安心させてよ。
そう思った瞬間に私は自分のことを少しだけ具体的に理解した気がする。
陽一は私から顔を離すと、鼻先が当たりそうな距離で私の目を見つめた。次は何と言うんだろう、と思ったときに、近距離なのに息もかからないほどの僅かな、冷静な低い声が私を突き刺した。
「――――分かった。もう、近づかない」
陽一の背後で上がった花火は、悲しい自覚を私に運んできた。
―
離れる合図にキスだなんて、欧米人かと言ってやりたい。
だけどそれを言うことも叶わぬまま、あれ以来陽一と一度も会話をせぬまま、夏休みが始まってしまった。

