きみを守る歌【完結】

目の奥が熱くなっていくのを感じる。陽一がいつか私に言った、私を守るっていう言葉の意味が、すぐに分からなくなった。可哀想なわたし、という言葉の破壊力が、心の中にある繊細に積み上げられたものを土足でげしげしと散らかしていく。




「っ、関係に縋りついたりなんてしてないし、依存もしてない!」




そう叫ぶと、勢いで私の足が動いた。そのままトイレを出ると同時に、一気に涙が込み上げてきた。セイラちゃんに、理不尽に罵倒されたからだ。

だけどあれは本当に理不尽だったんだろうか、と思うと喉の奥が熱くなってくる。


どうしてあんなこと言われなくちゃいけないんだろう。ただ陽一と一緒にいただけで。なんで、私の何が悪いんだ。私が何を間違えたんだ。



「飛鳥っ」



走る私の腕をよく聞いた声が呼び止めて掴む。それは私が今一番聞きたくない声だ。

何も言わずに振りほどこうとすると、引き寄せられて両手で顔を掴まれた。背けたいのに無理やり視線を合わせられる。



「どうしたんだよ、何で泣いてるの?」



陽一の優しそうな声に余計に腹が立った。心配している目だ。私のことを、可哀想だと思っている目だ。

トイレに入っていったセイラちゃんのことを待つために近くにいただけのくせに、たった今、私以外眼中にないみたいにまっすぐ私を見つめてくる。この目は、私のことを可哀想だと思っていて、だから私から離れられない。

そう思うと悔しくて悔しくてたまらない。恥ずかしくてそれが嫌で、どんどん涙が込み上げてくる。



「飛鳥」

「触らないでっ!名前も呼ばないで!」



叫んで顔を左右に振ると、状況を飲み込めていない陽一は怯んだように両手の力を緩めた。あぁ駄目だ、全部同情されているような気がする。



「なんで泣いてるんだよ、やっぱり何かあったんだろ」

「うるさいっ!陽一のせいだっ」

「落ち着け。誰かに何か言われたのか?」



無自覚に無知が重なっていく。発想もないのか。私がセイラちゃんに、理不尽に嫌われていることを、思いつきもしない。けれどそれは仕方のないことでもある。私が言わなかったから。