きみを守る歌【完結】

何だろう、と思って確認すると、予想外なことにセイラちゃんの名前が画面に表示されている。一瞬陽一の携帯を持ってきてしまったのかと思ったが、これは私の携帯だ。

こないだめっちゃ嫌いだと言われたばかりだ。どうしたんだろう。



「もしもし?」

「……先輩?」

「え?なに?よく聞こえない」

「わたし、今日、陽一先輩と花火に来たんです」



私が電話の音量を上げたのと、セイラちゃんが声を張ってそう言ったのは同時だった。おかげで、まあまあな迫力で声が耳に流れてくる。雑音も一緒に。


「そうなの?よかったじゃん」

「だけど、行ってしまいました」

「へ?」

「やっぱり、飛鳥先輩と、見たいんだって。だから、探しに行くって。入口の、時計台で待ってるって言ってました。そこで約束してたんですね」


一瞬だけ、あたりが静かになったような気がした。それが気のせいだったことにはすぐに気が付いた。動揺しているのが悟られないように、私は記憶をたどる。


「そんな約束、した覚えないけど」

「でも、飛鳥先輩がそこにいるからって言ってました。……私は、伝えましたからね」


そこでやや乱暴に電話が切られる。私は事態を飲み込めない。ただ、陽一とセイラちゃんが一緒に会場まで来て、陽一がセイラちゃんを置いて、歩いて行く様子が浮かぶ。

――こんな人ごみに、あんなかわいい子一人置いて、何をしているんだ。


見上げると不可解そうな顔をしたノリくんが私を見ていた。もうすぐ花火が始まる。集まりに集まった人は、ほとんど流れず、一定の場所に固まりつつある。


私のためにここまでついてきてくれたノリくんと、いまさら人の割り込みや移動を許したくないであろう人ごみ。



「……ノリくん、ごめん、私、陽一が、呼んで」

「……行くんですか」

「……うん」

「一人で大丈夫なんですか」









謝って謝って時にやや強めに人ごみを押して、私はなんとか公園の入り口付近までやってきた。迷惑そうな人たちから目をそらしながらやってきた時計台には、さっきまでいた場所ほどの混雑はなく、人がまばらに散っている。


そこに陽一はいなかった。