「違う、香住先生への視線を感じる」

「お前はバケモノか!?」


なんで香住先生視点なんだよ!と陽一が言っている。うるさいなあ。私は先生のことだったらなんだって理解するもりだし先生を傷つけるもの全てから守るつもりなのだ。それなのに視線くらい気づけないで……と、そこまで考えながら周りを見渡して気づく。

どういうことかな、どうしようかな、と思っているうちに陽一も気が付く。陽一は昔から気づくのが早いし察しもいい。まあモテて軽い男ってそういうのが多いんだろうと勝手に思っている。


「……なんでこんなところに百瀬がいるんだろねー」


私は答えない。けれど参考書コーナーに隣接している文庫本コーナーには確かにももちゃんがいて、数冊の文庫本を手に、ももちゃんはじっと先生の方を見ている。

なぜ、ももちゃんがここにいるんだろう。偶然だろうか。それにしてもじっと黙って、動揺するわけでもすぐに目をそらすわけでもなく、先生のほうを見ている。


「ももちゃんって勤勉なんだね……!さすが私の友達。負けておれん」

「いや、あれはどう見ても」

「ていうか私も本読んだ方がいいかな。語彙獲得のために」

「……飛鳥って時々痛々しい」

「黙れサル!」

「っおい、急に声張んな」


先生に聞こえるよ、と陽一が私の口元に人差し指を立てる。あ、あたりそう、と思った瞬間、自分がどんな顔をしたのか分からない。けれど陽一は表情を変えた。


「やっぱり芹沢と飛鳥か。こんなところで痴話げんかしてんな」


陽一が制したのもむなしく、さっき私が張った声でももちゃんは私たちに気が付いたようだった。ちら、と目をやると先生は参考書を開いて中身に集中していて、私たちには気が付いていなかった。



「飛鳥どうしたの。何かあった?」


陽一もももちゃんも、いやに繊細で、私の心の波にすぐ気が付くんだなあ。何だか情けなくなって、逃げ出すことしか考えられなくなった。


「勉強しようかと思って来たんだけどね。今日のところは退散します。じゃあね、ももちゃんと陽一」


「え?何どうしたの、飛鳥」


背を向けて歩き出す私に向かってももちゃんが食い下がった。情けない、どうして気づかなかったんだろう。私はこんな形でももちゃんと気まずくなるつもりはない。


「ごめん、離して」