きみを守る歌【完結】

私の動揺に気が付かないように陽一は振り返る。私は最近になって動揺ばかりしている、と思うといろんなことが少しずつ変わってきているのだと、梅雨明けの強い日差しとともに実感が落ちてくる。

半端に見捨てられない距離を保つのがうまい、というセイラちゃんの声が頭の中で響く。



「ノリくんには勉強教えてもらってただけだよ」

「俺が教えてあげるのに」

「陽一はバイトで忙しいじゃん。だからノリくんに教えてもらった。そしたら教えてもらった帰りに、陽一が年上の彼女とひっついて歩いてるところ見たから、やっぱり陽一に頼まなくて正解だったと思って」

「え、」

「そんなこと思ってたら後ろから迫ってくる自転車に気づけなくて、轢かれそうになったところを、ノリくんが抱き寄せて助けてくれたの。その写真だよ」

「……」



例えば私は陽一に鎌をかけて本音を聞き出そうとすることはできても、あなたは本当は私とどうなりたいのか、ということは、聞けない。



「陽一はいつになったら、一人に落ち着くの?」



甘いクレープの下に溶けた生クリームが伝って、ぽたりと滴を作って落ちる。陽一は困った素振りをみせず、えー、と笑った。



「多分、落ち着けない」




だから無駄なのだ、と思うとそれは私を安心させる。

ははっ、と笑うと陽一は私の目を見た。



「こないだ、いつになったら俺を信用すんの、とか言ってたのにね」



駅のホームが見えてきたところで、陽一はクレープを食べおわって紙を畳んでいた。陽一には意外とこういうところがあって、飴の袋を結んでいたり、ファストフードの包み紙を綺麗に折っていたりすることがある。

そんなことにふと注意をやっていると、陽一はやや自嘲気味に笑った。



「俺も、いつも何が最善か、考えながら生きてる」



あ、と思った。あ、という衝撃が胸の中に広がる。あ、違う、そうじゃない、と。なぜそう思ったのかも、これをどう表現していいのかも分からない。けれど違う。



「それ、何の顔?」



ふと陽一が私の顔を覗き込んでいることに気が付く。そして同時に、自分の表情が明るくないことにも。どういうつもりで聞いているのか分からない、と思いながら陽一を見返すと、私の目を見る瞳が、どこまでも深い気がして、既視感がする。