きみを守る歌【完結】

「私はやってませんよ!!」

「先に話を聞きなさい」



あ、はい、と返事をする。また私の仕業だと怒られると身構えていた。



「えっと、江渡さんが、あなたのカンニング疑惑をでっち上げたと、認めました」

「えっ……は、はい……」

「疑って、申し訳なかった」


泣きながら認められたら責められない、と思いつつなぜこの中年のおじさんが私に謝っているのだろう、と不思議に思う。

どちらかと言うと和多先生の方に少し恨みがあるのだけれど、同席すらしていない。あれか、他人に失礼があった場合の責任者はこのおじさんなのか。謝罪係か。実際に誰が迷惑をかけたかは問題じゃないのかと思うと、社会の闇を見た気がする。


江渡さんはぐすぐすと伸ばした薄手のカーディガンで目元をこすっていて、どう声をかけたらいいか分からないまま、ただカーディガンとか暑くね?という感想ばかりが頭の中をめぐる。



「えっと……何でこんなことしたの、とかいうのは愚問だと思うから聞かないけど」

「有栖川さんがビッチだから……」

「答えるのかよ!」


聞かないって言ってるだろ!しかも先生の前でよくそんなこと言えるな!しかもビッチって思いっきり言いがかりだ。ツッコミどころ多いんだよ!


「念のために聞くけど、全部……江渡さんの仕業なの?あの、靴隠しとか教科書八つ裂きとか」


「全部は……やってない」

「その言い方だとほとんどやってるな」


江渡さんがさっと目をそらしたのを私は見逃さない。けれど江渡さんはあくまで「私以外にもやった人がいる」という部分にこだわりたいらしい。


「ていうか数えらんないでしょ。あんな陽一のことをそんな風に扱える有栖川さんのこと、みんな理解できないっしょ」

「開き直った!!」


先生!?

非力な先生は開いているのか閉じているのか分からない目をうつろにさせている。いよいよこの部屋が正常に機能していないと思うのは私だけだろうか。

今の「あんな」は「陽一」にかかっている、と思うと、みんなはとても陽一のことが好きで尊敬しているんだ、ということを改めて思い知る。



それに対して私は、どんな風にうつっているんだろう、ということも、嫌だけれど考えさせられる。