きみを守る歌【完結】

私はときどき息が詰まる思いをしながら、こんな思いをするなら誰か恋人を作ってしまいたいと思うし、陽一にだって恋人ができればいいと思う、これは嘘じゃない。


けれどセイラちゃんは片頬を上げてはっと笑った。何をしても雰囲気がついてくる人っているんだな、と実感する。



「やっぱりあなたのこと本っ当に嫌い」



思ったよりもその言葉が心に刺さってしまうのは、きっと私だけじゃないはず。背丈は私と変わらないけれど足の長さが圧倒的に違う、モデルのような、設計されたようなスタイルがとても鋭い武器になる。



なんで、こちらから悪意を向けたことのない人間に、こんなにも嫌われないといけないんだ。



「なんで、」

「鈍感でご都合主義で自分勝手で、言い訳が上手だから」

「泣くぞ!?」

「半端に見捨てられない距離感を保つのが上手」



とっさに主語も目的語も理解できないくらい、自覚したことのないことを言われている。


「自分から距離を置いたり、突き放したりする勇気がないだけのくせに。幼馴染っていう呪いみたいな関係にしがみついてるのは、あなたのほうでしょ」



その瞬間、自分が表情を崩さないことを意識したことに気づく。そして崩れそうな表情をこらえるために、人の顔は強張るのだということを知る。

ただ彼女の目にだけ注意が行って、そこには私の顔が映っていて、見えないのにうなだれて泣き出しそうな自分がいるように思える。





「別にいいですよ。そんな根性の女に、幸せになれるなんて思ってませんから」





なんで私が、ここまで言われないといけないんだろう。それ以外言葉が出てこないことに、私は彼女の言ったことに真実を見ている。







次の日に学校へ行くと、朝いちで生徒指導室へ呼び出された。この数日間であまりにも高頻度で呼ばれているため、ノイローゼを起こしそうだ。素行のいい有栖川飛鳥は、生徒指導室への耐性がついていない。


立て続けになんだよ、と思いながら生徒指導室へ入ると、中にはクラスメイトの女の子が先に入っていた。

あぁあの私にクソビッチという暴言をお見舞いした、えっと、江渡さんか。そう思って顔をちらっと見るとなんと泣いているのでぎょっとする。

私が入室したことに気づいた先生が疲れたように目線を上げる。



「ああ有栖川さん」