「な、ん、で、お、ま、え、が、い、る、ん、だ、よ」

「いやー、飛鳥の行く先々に必ず俺?って素敵じゃん?ヒーローみたいで」

「散れ」


ポロシャツにジーンズと、陽一の私服は思ったよりシンプルなものだったけれど、背が高くてすらっとしているからなんだかきまっていて、いつも見ている制服姿よりも抜群にあか抜けているように見えた。一瞬だけ。


「飛鳥、気合入ってんじゃん」

「当たり前でしょ。いつプロポーズされたって恥ずかしくないように」

「飛鳥の問題点は見た目ではなくアタマだな」

「ウキイイイイイイ」

「なんだよウキイって!退行現象かよ!」


はっしまったこんなやつを相手にしている場合ではない。私は向き直って、参考書コーナーが見えるけれど向こうからはこっちを注目しにくいであろう非常階段の近くの柱で身なりを整える。


「飛鳥のこういうところ本当ストーカーっぽい。ぽいってかこれはもうれっきとしたアレだ」

「じゃ、帰れ」

「俺がいることで緩和してやってんだろーがよ」


言ってる意味が分からないと言いながら私は行きかう人たちのなかで先生を絶対に見逃さないように目を凝らした。16時20分。いいくらいの時間だ。あぁはやく先生に会いたい!


「飛鳥、こんなこと、本当にしたいのかよ」

「ちょっと気が散るから黙って」

「いつからこんな見境なくなったんだよ」

「みさかい??それって誰のためにある言葉だと思ってんの?陽一みたいな下半身妖怪にこそ見境が無いという言葉がありますよ」


陽一の溜息の音が背後から聞こえて、今は絶対に振り返れない、と思う。


「だから俺は」

「あ!!香住先生!!ちょっと陽一黙って!!」

「今の飛鳥ちゃんの声のほうがでかいけどね?」



一人でなにやらスマホをいじりながら本屋の中へ入ってくるのは確実に香住先生であった。私ってやっぱり天才かも……!ああ、休日に香住先生に会えるなんて、最高すぎる!

ここからのプランは完璧だった。偶然を装って先生に近づき、また偶然なことに同じ参考書を手に取ろうとする先生と私……あっ、すみません、手が当たりましたね。って、先生……!?すごい何これ、運命かなぁ……!よし、シミュレーションは絶好調だわ!


「ん?視線を感じる」

「誰もこっち見てないっしょ。こんな怪しい場所」