「そんなの、素人には判断できないじゃない。常識的に考えてみてよ、こんなこと他人がやったとして、その人にメリットはないでしょ?濡れ衣だって言う方が、よっぽど苦しいのよ。認めなかったら停学になりますよ」


見てないんだ!フザけんな!と怒鳴りたい気持ちは「ていがく」の4文字によって見事に小さくなった。


「て……!?」

「認めても停学になるでしょうね。カンニングは特に厳しく取り締まってますから」

「冤罪ですけど!?」

「そうね、らちが明かないから認めたら反省文で許してあげますよ。全教科の補習には参加必須になりますけど」


なんて横暴なんだろう、と思うと身体が震えて言葉が出ない。目の前の中年のおじさんは、生徒指導室の長(のような風貌)のくせになかなか判断を投げているような顔をする。ふ、ふざけんな!



この女、陽一の前じゃ何も言えなくなっていたくせに。とりあえずテスト受けなさい、とちょっと柔らかそうな声で私に言ったくせに。私の全身に戦慄が走る。虫唾も走る。もう身体中に、走れるものすべて走っているような気がする。



「あら、地震かしら」

「怒りで身体が震えてるんです」

「震源地あなた!?」

「やってないって言ってるでしょ!気持ち悪いな!なんなら筆跡鑑定出してみろよ!安いところだと2万ちょっとでやれるらしいな!学校が費用出せよ?冤罪なんだから!!」

「な、あなた言葉遣いに、」

「うるさい!」



ああしまった言ってしまった、と思いながら、小さい時に担任の先生に「飛鳥さんは、好奇心旺盛で自己主張がよくできますが、気が短く忍耐力が足りないところがあります」と成績表に書かれたことを思い出す。



「なんで私がやった一択なの!?やってないっていう私の意見はこの空間のどこにも存在しないの!?あー痴漢の冤罪で苦しめられる男の人の気持ち分かった気がするわ!!最低最悪!こんなんじゃ教師にあこがれる子どもどころか高校の生徒が減るわ!!」


「……」



私が怒鳴った瞬間、生徒指導室から音が消えて、廊下を誰かが歩く静かな足音と窓の外を飛ぶ鳥の声だけが響く。




「……って……昨日のドラマで言ってましたよね」




「あなた……」


やばい全然ごまかせてなかった!あっどうしよう!結構な暴言吐いてしまった!