きみを守る歌【完結】

今の「ごめん」にまったく気持ちがこもってなかったことなどバレバレだ。今日はもう陽一と話したくない、と私は一度だけ陽一を睨んで前を見る。放課後にノリくんに会うこともないし、今日は真っすぐ帰って勉強しよう。



「飛鳥?早く靴履き替えてよ」


放課後になって、ももちゃんと歓談しながら学校を出ようとしたときだった。帰りのSHRが終わって部活が始まる前の時間、昇降口を出入りする生徒の数は朝と同じくらいになる。たくさんの人が入れ交って、制服姿の人もいれば部活着の人もいる。つまり人が多い。だから私は目の前のことがとってもさりげなく行われていたら、気づけると思わない。


「靴が無い」

「はっ?」


靴が無いのだ。あるべきものが姿を消した私の下駄箱には、代わりに「ちょうしのんなブス?」と書かれたメモが入っている。


「は!?何これ」


ももちゃんがとっても引いたように声を震わせながらメモを破く。ももちゃんが二つに割いたので、半分受け取って私もビリビリに破いた。


「……納得いかない」


理不尽に私の肩が震えていることに気が付いたももちゃんが、私の背中を叩く。


「ちょっと飛鳥こんなの気にしないでよっ」

「みんなそんなにも陽一が好きだったの!?」

「納得いかないのそこかよ!」


仕方がないのでスリッパで歩き出すと、校舎の外をスリッパで踏むのはすごく変な感触がする。だけどあんまり浮いてないかもな、と行きかう人たちを横目に見ながら思った。

ももちゃんはうーん、と低い声を出した。


「まあ確かにねえ。芹沢のことはみんな好きだろうね。それに去年、飛鳥が村崎くんといろいろあった時から芹沢、一気に学校内で付き合ってた子切ったし」


もう一年も前かあれ、とももちゃんはひとりごちる。


「それまで7人くらいと付き合ってたでしょ、ウケる。だから好感度急上昇だし、みんな芹沢にとっての一人になりたいけど、なれないから」


芹沢の彼女になりたくても、関係性がいつまでもはっきりしない幼馴染のことを、芹沢がいつも気にかけてるせいで、なれない。ももちゃんがそう続けたので私はまた、嫌な気持ちになる。


一年前、私は村崎くんという陽一に並ぶハイスペックイケメンのことを追いかけていた。陽一と違うところはいつも最高の笑顔を振りまいている王子様のような人だったというところだ。