「ノリくんの風評被害が出るよね」

「はぁ、別にそんなことは気にしてないからいいけど」

「え」

「ノリくんもそんなこと気にしないし、ていうかあんなん嘘って一発で分かったし。嘘って時点であんないやがらせ、無効でしょ」


霜田先輩があまりにあっけらかんとそう言ったので、拍子抜けする。あ、ていうか、私もそう思ってるはずなのに、なぜか安心した。やっぱり「しょうもない」と言ってくれる存在は大事だ、どんなつまらないいやがらせをされたとしても。


「霜田先輩、意外といいやつなの?」

「はあ、今日は飛鳥ちゃんのチャリパクろうかな」

「ノリくんが返しに来るんでしょ」

「はは。もう親から大目玉くらったからしばらくは活動休止する」


永遠に活動休止してくれ、という意味を込めて霜田先輩に向かって合掌し、教室に戻るとちょうど陽一が登校してきたところだった。こういう日に限って時間通り来やがって。まあそもそも、色んな教室に貼られているであろうこのコピーを、全箇所回ってはがすことをしていない時点でバレただろうけど。


陽一はもちろん身に覚えのないであろう文言に、絶句している。二股ってなあそもそも一股もしてませんけどって感じだ。けれど陽一が次にあげた声はある種教室のニーズを満たしている。悪い意味で。


「え、この男、誰?」


ええ?と思って写真を見直すが、どこからどう見てもノリくんだ。そう思ってから、そういえば陽一は学生だったころのノリくんしか見たことがないから、こんなスーツで髪の毛を上げていないノリくんのことは知らないはずだ、と納得する。ましてや極道とか書いてあるしな。


「ノリくんだよ、だから別に」

「は?」


少しだけ言葉が強い。なんで陽一はそんな風に、怒ったように、言うのだろう。もうそろそろ始業時刻なのにおかげで教室の中の空気が異様だ。


「なんであんな危ない目に遭わされたのに一人で会うんだよ」


ああそういうことか、と納得する。これはただの心配だ。


「えっ……別に危なくないってことは体育祭の日に2人で実感したよね?あの非力なノリくんを見てさ」

「それは俺といたからであって、一人で会いに行って安全とは限らないだろ」

「何言ってんの?」