急に恥ずかしくなって先生にこういうわけだと説明をしている間、陽一はあきれたように溜息をついていた。


「こういうわけなんです、助けてください先生」

「更年期かな?」

「違います!!」


陽一と同じリアクションをされて、パニックで参考書ドキドキの下りをそのまま伝えてしまったことに気づき、失敗だったなぁと思う。あいつのアドバイスが的確だったなんて、思いたくもないけど。


「何というかねぇ、教科書の問題解くのが一番だよ。分からないところあったら聞きに来てよ」

「教科書も分からないんです!だからもっと易しいレベルで、私でもできそうなものを探したいんです、できれば家で解きたいし」


ここまで言って自分の嘘八百に申し訳なくなってきた。けれどこれも乙女心です、許してください。


「まあ、確かにそういう生徒は他にもいるかもしれないしね。易しいテキストを持っておくのは悪いことじゃないかもな。俺も教材が欲しいから、買ってきてコピーしたやつ渡すよ。そっちの方が負担ないだろうし」


「いやあのそうじゃないんです。っていうかなら私も付き合います」

「でも俺は部活の顧問持ってるから、その帰りにちょっと寄るだけだし、なるべくわかりやすそうなやつ探すよ。任せて」

「そうじゃないんですうぅぅぅ」



先生とお出かけしたいんです!!と言う前に香住先生はいなくなった。何という、失敗!勇気を出したにも拘わらず!もう手段を選んでおれぬ!


「あっちゃー、飛鳥ちゃん撃沈っすね。そんであれ気づいててやったと思うよ。ってか、そんなに勉強したいなら俺が教えてあげるのにねー」

「香住先生ってバスケ部の顧問だよね。うちのバスケそんな強くないし休日の練習は16時には絶対終わってる。で香住先生はH区に住んでるから、本屋はあそこだな。日曜の16時半だな……」

「怖すぎるし」


日曜日は朝から起きていた。髪を毛先だけ巻いて、スプレーで重くないように少しだけ散らしてみる。化粧の仕方がうまくわからないから、眉毛の形をととのえて、薄い色のアイシャドウを乗せてみた。それはわくわくする作業で、うまくできたかどうかよりも気分を高揚させることができて効果的だと思う。


意気揚々と駅を降りて隣接するピルへの通路を渡っていると、大きな本屋の前で見慣れた影が私を見つけて笑った。