黒板に貼られた数枚の写真の下は私のフルネームと、「二股女!新しい男は極道の男」というフレーズで飾られている。



「……えっ」



廊下からバタバタバタ、という音がして走って私に近づいてきたのは、霜田先輩だった。顔を険しくした霜田先輩は私の目を見て、あ、久しぶりにこの人に認識された、と思った瞬間私は驚きを隠せないまま口を開く。


「ノリくんって極道だったの!?」

「なわけないだろフザけんな!!」


4大卒の使用人だわ!!と言われあっ何だ黒板に書かれているほうが嘘だったのか、と気づく。よく考えたらそうだ、セイラちゃんがノリくんの素性に詳しいとはにわかに考えづらい。


「お前こそ!」


霜田先輩が取り乱したように、周りの注目も気にしてない様子で声を荒げる。当然だ、霜田先輩の家の使用人様を巻き込んでしまったのだ、怒るのも無理はない。


「有栖川飛鳥って君!!??」

「え?わたし」

「ありすがわ!?なんだよその可憐な苗字!!詐欺もいいところだな!!」

「名前に文句つけないでよ!!」


人の名前に文句付けるなんてやっぱこの人頭おかしいんじゃないか、と思う。そしてそっか、3年の教室にも同じやつが貼られてたのか、ご丁寧に。400人中399人が「飛鳥って誰だよ」って鼻で笑ってると思うけどね。


それにしても、霜田先輩には迷惑をかけてしまった。まさかこんな不名誉な書かれ方すると思わなかったからだ。せめて「年上キンパツ彼氏!」とかかと思ってたらなんとヤクザとは飛躍もいいところだ。ケータイ小説の読み過ぎなんだよ!

教室の中ではどうしても他の生徒からの視線が痛いので、霜田先輩を連れて廊下へ出た。しばらく歩くと生徒が少ないところにたどり着いたのでとりあえず私は謝る。


「あの、ごめんなさい」

「は、何がごめんなさい?こんないい苗字をもらっておいてこんな見てくれでごめんなさいってこと?もっと自信もって生きなよ」

「じゃねぇめんどくせぇ」

「……飛鳥ちゃんはしたない言葉遣いするよねー」


霜田先輩は前からそうだったように、物腰が柔らかそうに、無駄にさわやかに笑顔を浮かべながら話す。ああ前は何万ルクスとか思ってたなあ、と思うと懐かしい。

一度腹の底が見えてしまうと見た目の情報はあてにならないと分かるんだもんな。しかし学べない、面食い乙女だから。